ここは暗くて。寒くて。怖くて。
誰か助けて。助けて下さい。僕を。僕を。
「・・・・・助けて」
楊ゼンは自分の言葉に夢から覚めた。荒い息をしながら寝台に身体を起こす。冷や汗のういた額に手を置いて、うつむく。ひどく悪い夢を見ていたような気はするが、はっきりと思い出せない。それよりも何よりも、自分の言葉が彼には気にくわなかった。
助けて、だなんて。
たとえ夢の中であっても、誰かに助けを求める自分なんて我慢できない。
・・・なんだか頭が重い。
大きな石の塊を飲み込んだように、胸がむかむかする。自分自身をコントロールできないことにいらだちながら、楊ゼンは首を巡らせて窓に目をやり、薄く差し込む朝の光を見る。
「もう、起きなきゃ。・・・・師匠が待ってる」
寝台から足を下ろし、立ち上がろうとしたその瞬間。
楊ゼンは床に崩れ落ち、気を失った。
気が狂いそうなほど緩慢なスピードで、ゆっくりゆっくり落ちていく。
暗く暖かい闇の底。
弱い自分なんて、知らない。
コントロールできない感情なんて、知らない。
自分はいつだって、わかりきった程、自分自身。
そのはずなのに。
闇の底で、誰かが泣いてる。
助けようと手を伸ばしても、遠すぎて届かない。
あなたは、誰?
泣き叫びもがいてる、ひとりぼっちの、小さな子供。
弱い自分なんて知らない。
あなたなんて、知らない。
それなのに。
怖いよ。僕は。
泣きたいぐらい、怖いんだよ。
・・・いつか僕はきっと呑み込まれる。
見知らぬ自分の、消せない狂気に。
仙道が病気をすることなど、滅多にあることではない。
だから今回の熱病の大流行は崑崙山にちょっとした混乱をもたらした。死者こそまだ出ていないが、高熱とその苦しみようがひどく、また年若い道士のみならずある程度修業を積んだ仙人までもが病にたおれた。そして原因は、妲己や封神計画による崑崙の気の乱れではないかと目下のところ推測されているのみ。
玉鼎真人は寝込んだ愛弟子の枕元に座り、重いため息をついた。
封神計画に太公望の右腕として本格的に参加しようというところの大切な体なのに、などとくどくどと独り言を言いながら、暗い顔で苦しげな楊ゼンの寝顔を見る。心配だった。気がおかしくなるほど。
楊ゼンほどの道士が熱ごときでどうにかなるわけではないことはわかっていても、不安は拭い去れない。日の光を遮ったほの暗い部屋で、何度も何度もため息をつく。
楊ゼンの瞼が何度か震えた。
乾いた唇が、小さくひらかれる。
何か言いたいことでもあるのかと、玉鼎真人は身を寄せたが、聞こえるのは速い息遣いだけ。
「楊ゼン?」
呼びかけても返事はない。やっぱり寝ているのかと、椅子に座り直して腕を組み病人を見つめる。
そして、幼い日の楊ゼンの姿を思い出したりする。
風邪をひいたこともあったよなあ。その時もすごく心配したな、そういえば。
のどかな想像は、楊ゼンのかすれた喘ぎ声にさえぎられた。
「・・・・・お願い・・・」
「はっ? 楊ゼン、何だ?」
あわてて身を乗り出して聞き取ろうとするが、声はとぎれる。
うわごとのように曖昧だが、何がしゃべろうと努力して、楊ゼンは唇を何度も動かそうとする。
「僕が・・・・」
そして何かに耐えるように眉根をよせると、また口を閉じてしまう。
何か夢でも見ているのだろうかと玉鼎真人はいぶかしむ。
そういえば雲中子の話だと、この熱は精神だけを高揚させ、冒されたものに幻や悪夢を見せるらしい。
「かわいそうに・・・・」
自分まで苦しい気分になりながら、玉鼎真人は楊ゼンの前髪をそっとすく。
その時、楊ゼンの堰を切ったような小さなうわ言がやけにはっきりと聞こえた。
「もしも、この僕が、この姿を保てないほど消耗して」
「理性もなくなって、崑崙を、敵に回したなら」(・・・あなたに刃を向けたなら)
「師匠が、僕を、殺してください」
お願いだから。
もうヒトではない僕ならば、あなたの手で、消し去って。
熱にうかされて、半ば眠ったまま、白濁とした意識でとぎれとぎれにつぶやかれた言葉。
玉鼎真人は絶句して息をのんだ。
頭の奥で、堅く閉まっていた暗い扉が開いて、いっきに闇が流れ出したようだった。光に満ちた日常の中で、忘れていた、いや、忘れたのだと思い込んでいた二人の間の消せない扉。
幸せな日々だけを真実の全てだと信じるには、その扉の奥で息をひそめる怪物は重すぎる。
「師匠・・・。お願いです。お願い・・・だから」
見えない何者かと戦うかのように、楊ゼンがあごを反らせかすかに首を振る。
「・・・・約束を、して・・・下さい」
約束。この子は、何を求めているのだ。
いきなり目の前に突きつけられた楊ゼンの身を引き裂くような思いにただ呆然として、思考が働かない。渇いた咽の奥で言うべき言葉を探そうとしても、闇の深さに目が眩んで何も見つからない。
ただ、かすれきった楊ゼンの喘ぎ声を、崩れ落ちていく崖に立って下を望む者のような絶望の中で、何か遠いもののようにも感じながら聞いている。
「師匠・・・・あなたの、手で・・・・僕は、僕は・・・」
「もう、わかったから。わかったから、何も言うな。楊ゼン」
ほとんど懇願するようにそう言って、空を掴むように開かれこわばった楊ゼンの手を握る。
「おまえは何も心配することなど、ないのだよ。だから・・・」
言葉はきっと届かない。表面的な慰めの言葉など、苦しむこの子に届かない。
そうわかっていても玉鼎真人は、それ以外に自分が言うべき言葉が見つからない。
「大丈夫だから、大丈夫だから。おまえは人間だから」
繰り返す言葉は、決して届かない。
ひそめられた眉と、ほつれて広がった長い髪。高熱に苛まされながらも、血管が透けるほどに血の気のない白い頬が痛々しいほど。
楊ゼンがうわごとのように、また言葉を紡ぐ。
「・・・・約束を。・・・師匠」
――僕を、僕を殺して下さい。もしこの体が、この意志が、今の僕でいられない時が来たら。
「・・・お願い。その時が来たら・・・僕を、僕を・・・」
玉鼎真人は目を閉じて、楊ゼンの額に自分の額をよせた。
楊ゼンの荒い息遣いがまるで彼の泣き声のように聞こえる。
堅くつむられたその瞼の奥で、この子はどんなに深く暗い心の淵をのぞいているのだろう。
それならば、と思う。この哀しい約束が、彼の漂っている狂おしい自分自身への恐怖の渦の中で、彼が身を寄せるよすがになるのならば。
「約束するよ。楊ゼン。おまえがおまえでいられなくなったら、私が、おまえを殺そう」
楊ゼンはその言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか、ふとあえいでいた動きを止めた。そして何か言いたげに唇を震わす。
つないだ手が熱かった。
玉鼎真人は楊ゼンの上に屈み込んだまま、自分の体が、魂が、石のように固まっていくような気がした。
何が、何の救いになるというのだろう。
いつか起こるかもしれない悲劇を夢想して、それを断ち切る鎌を見つけたのなら、それまでの道のりは穏やかなものになりえるというのだろうか。
自分には、わからないわからない。決してわからない。どんなにこの子を思っていようと、どんなに長く生きていようと。
―――できないかもしれない、約束をする。
眠っている楊ゼンを部屋に残して、玉鼎真人は耐えきれないほどの自分の無力さへのいらだちから気をそらそうと、そのような時によくする仕事にとりかかった。
しかし頭に浮かぶのは、ほとんど肉体的痛みすら感じるほどの、さきほどの会話ばかり。
あの子のことを思うばかりに、自分は、あの子の前に行く手をふさぐように立つ大きな壁を乗り越えさせようと手をのべるではなく、あの子が今苦しんでいる闇からその身をかばおうとする。
それが一時的なものでしかないことをわかっていても。
そして、人は言葉を誤る。
――「おまえは、人間だから」
言うべき言葉はそうではなかったのに。
どのような姿になっても。記憶が無くなったとしても、荒々しい破壊への欲求のみがその心を支配したとしても。それでも自分にとっては、楊ゼンは楊ゼンなのだと。
そう伝えるべきだったのに。
玉鼎真人は、楊ゼンを支えきれない自分の無力さを憎んだ。そして、楊ゼンがどんなに強くなろうとも、彼をとりまいて離さない抜け出せない血の楔を思った。
「何やってんの」
頭上からふってきた冷静な声に、玉鼎真人ははっと我に返り、手の動きを止めた。熱中のあまりうっすらと汗さえ浮かんだ顔を上げると、外に開け放たれた窓の外から片ひじをついてこちらを見下ろしている普賢真人と目が合った。
内心の動揺を押し隠し、あくまでもクールに、玉鼎真人は答えた。
「・・・鍋を、磨いているのだよ」
「それは見ればわかるけど」
「・・・・・」
「もうピカピカだね」
そう言ってにっこりと微笑んだ普賢真人になぜかつられるように、自分も不自然な笑顔を浮かべて、玉鼎真人は鍋を傍らの卓子において立ち上がった。
ぴかぴかどころか、十二仙一の剣の使い手に力まかせにゴシゴシやられた巨大な中華鍋は表面がかなりすり減って悲惨な様相を呈している。
あれはもう使えないだろうなぁ、などと思いながら、普賢真人はあわれな鍋ときまり悪げな玉鼎真人の顔を見比べた
「何か用か? 普賢」
「ううん。別に用ってほどのこともないんだけど」
いつもより少しぶっきらぼうな玉鼎真人の言い方に、くすりと笑って普賢が答える。
「本当ならば上がってもらって茶でも出すところだが・・・・あいにくと病人がいるのだよ」
「楊ゼン君でしょ? 実はねそのことで来たんだよ」
華奢な両腕で頬杖をつくと、普賢真人が玉鼎を見上げた。
「うちの木タクもやられちゃって。すごい熱」
「木タクも?」
玉鼎真人は、普賢の弟子の元気いっぱい木タクを思い出す。
それは、さぞや心配だろう・・・・と言いかけて、普賢のくすくすと笑う声に玉鼎は言葉を飲み込んだ。
「でね、熱にうかされてよく分かんなくなっちゃってるみたいで『母上ー』とか言いながら僕に抱きついてくるの。なんかかわいいんだ、これが」
玉鼎は黙ったまま、楽しげな普賢の顔を見た。そしてふっと息をはく。
「・・・おまえは、いつものんきだなあ」
そう言いつつ、内心では『私は精神鍛練が足らん。見習わなければ』などと反省する玉鼎真人。
いつのまにか日が落ちかけて、淡く澄んだ崑崙の空色が、下の方から身を焦がすようにやわらかな赤に染まり、金色に光を受ける輝く雲のかけらが、刻一刻と姿を変えていく。
気がすっかり晴れたとはいえなかったし、楊ゼンのことが頭から離れることもなかったが、しばらく玉鼎真人はその美しさに見入った。
・・・・こんなにも、こんなにも美しいのだよ。楊ゼン。おまえをとりまく世界は。
「雲中子の作った薬は、ちゃんと注射したんでしょう?」
「は? ・・・ああ、それはしたが」
普賢の言葉に我に返って、玉鼎はこちらを見上げる普賢真人を見た。
「じゃあ、多分あと二日もしないうちに楊ゼン君良くなるよ。・・・君はすごく心配してるだろけど」
そう言いながら、普賢は玉鼎真人の長い髪をそっとつかんだ。
「何だ」
「・・・・ずいぶん長くなったなあって思って。竜吉公主とどっちが綺麗かな」
「それは、公主のほうだろう」
きまじめに答えて、玉鼎は長い黒髪を後ろに流す。
普賢真人は相変わらずの笑顔。
女性的な線の細い顔立ちも、夕焼けの光に溶け込むような柔らかい髪も、まるでこんなふうに当たり前に存在することが不思議になるほどのあやうさと軽やかさで、彼という姿を形作っているかのようだ。
この上なく優しく、それと同時に冷たい微笑。
透明すぎて、底の見えない泉のようだと玉鼎真人は思う。いつ見てもこの人の瞳は。
そして、ふいに問いたくなった。
「普賢。・・・・意識が朦朧としているときに、語られる言葉にはその人間の真意は含まれているのだろうか。つまり、うわ言みたいな・・・」
まるで子供のような自分の物言いに居心地の悪さを感じながらも、玉鼎真人は言葉を止めることができなかった。それが楊ゼンのことを指していることが、普賢に伝わってしまうことも承知で。
「考える力も意識もない時、求めるものは、本当の望みなのかな。その時々の頭に浮かぶイメージがただ言葉になったのではなくて・・・根本的な・・・本当の気持ちを口に出すなんてこと、ありえるのだろうか」
あの会話を、自分は楊ゼンがただ何かの悪夢にうなされてのことだと思いたがってる。「本当のこと」を見ようとしない自分の滑稽さを乾いた感情で見つめながら、それでも玉鼎真人は決して短くはない楊ゼンとの日々の中で、彼の目が成すべきことを為そうという希望や、高みに上りつめていく自信に輝いていたことを思い出す。
そう、熱病に冒され意識を失う前までの楊ゼンの瞳には救いがたい翳りなどなかったのだ。どこにも。
うまく表現できないのだが・・・となおも言い募ろうとする玉鼎真人の言葉を、普賢真人の静かな声が遮る。
「僕たちはみんな、そんなに強いわけじゃないから。・・・・意識の目じゃ、理性じゃ、見えないものがあるんだよ」
「見えない、もの」
「人が自分の心として知っているのは、きっとほんの氷山の一角。そのほとんどが、見えない深層に沈んでる。それは多分、受け入れて生きていくには重すぎる物。死に対する漠然とした不安とか、虚栄心、もしかしたら誰かへのかなわない気持ち。そして、自分自身に対する怖れとかね」
普賢の声音は、ひどく穏やかだった。
「意識がとりはらわれてしまった状態では、理性がおさえつけて見えなくさせてたそれらの心が、顔を出すのかもしれない。そしてきっと」
普賢はそこで、言葉を切った。そして何かを見つけたように、ふっと視線を上にさまよわせてから、続ける。
「・・・・救わなきゃいけない傷は、その見えない心にあるんだよ」
見えない心。自身への怖れ。救わなきゃいけない傷。
朦朧とした無意識が、彼に言わせた言葉。
伏せた目を上げ、玉鼎真人は端正な横顔で、空を見上げた。
知らないうちに止めていた息を、ゆっくりとはきだす。
頭のどこかが、しん、としびれているような気がした。祈るように玉鼎真人がつぶやく。
「・・・・それでも、強くなれるかな。私たちは。見えない心を受け入れられるほど、強く」
普賢真人は小さく笑いながら答えた。
「それは、どうだろうね」
雲中子のあやしげな薬が効いたのか、翌日には楊ゼンの熱も下がり、彼らの日常はあっけなく戻った。楊ゼンの様子には変わったところは何一つ見られず、玉鼎真人には彼が病床でかわされた会話についての記憶を持っているのかどうかわからなかった。
その日、いつになく本気の手合わせを終えた後で玉鼎真人は楊ゼンに言った。
「もう私にはおまえに教えることはないよ。楊ゼン。私としては少し残念だがね」
一瞬、びっくりしたような顔をして、楊ゼンは首をふった。
「師匠! 何を言っているのですか、僕は・・・」
「いや。剣の技量も、変化も、とっさの状況判断も、どれをとっても驚くほどのレベルに達している。・・・たいしたものだよ。まったく」
感慨深げに、でも晴れ晴れとした顔で玉鼎真人は笑った。
「もう私の弟子に甘んじていることなど許されないよ。楊ゼン」
何も言わずに楊ゼンは目を伏せた。三尖刀を握る手に力を込める。いつかこのような日が来ることは内心ずっとわかっていた。
もっともっと、強くなりたいと思う。どんなに高みに上りつめても、上を見上げると果てのないかなたでこちらを見下ろしている者たちがいる。その場所まで自分は駆け上がっていかなければ。もっと、強く。
一度だけゆっくりとまばたきをすると、楊ゼンは顔を上げ、迷いのない目で師を見た。そして彼にとっては、強くなるという意志と同じ位に揺るぎない、真実そのものである言葉を玉鼎真人に告げる。
「でもね。師匠。僕が師匠を越えることは、永遠にありえないのですよ」
玉鼎真人は腑に落ちない顔をして肩をすくめた。
「事実、もうおまえは私を越えていると私は思うのだがね」
「それでもです。僕が師匠より強くっても、僕は師匠を越えられません。ずっとずっと、師匠は僕の師匠なのです」
頑迷さや、自立できない依存心という言葉ではくくれないほどの、透明で清冽な笑顔で楊ゼンは言う。それは楊ゼンにとって、今こうやって息をしてここに存在しているということと同じほどに確かなことだったから。
「だからずっとそばにいて、僕を導かなければいけないのですよ。師匠は」
玉鼎真人は何と言っていいのか分からないというような顔をしていたが、やかてふっと笑みを浮かべた。
「ずっとそばに、とはずいぶん手間のかかる弟子だね、おまえは」
「そうですよ。今ごろ気付いたのですか?」
「・・・・ずっと、ずっと、か」
どこか遠いところを見るような目で、微笑を浮かべたまま玉鼎真人が呟く。大切で儚い、小さな願い。不死に生きる彼らには、「永遠」なるものがいかに不可能で、「未来」というものがいかに曖昧であるかをわかっていたけれど。
だからこそ。
「さ、もう一度手合わせするか。楊ゼン」
まるで恋人同士のような会話に気恥ずかしくなったのか、玉鼎真人は気を取り直すようにそう言って、剣を構えた。
楊ゼンも表情を引き締めてそれに応じる。
このまま永遠にこんな日常が続いていくような、そして続くようにと願いたいような、どこまでも明るい日だった。
成長して自分を越えた楊ゼンと剣を交えながら、玉鼎真人は心のうちで彼に語りかける。
強く思えば、伝わらない想いなどないのだ。きっと。言葉になどしなくても。
今は玉鼎真人はそう信じることができた。
この身体が砕け散っても
魂さえ、消えてしまっても
それでも私はおまえのそばにいるよ。
ずっとずっと、そばにいるよ。
そして信じているよ。
おまえが自分の全てを受け入れられるほど
強くなること。
誤らずに、進むべき道を行くこと。
そして願っているよ。
おまえが、誰よりも誰よりも、
幸せになるように。
唐突に終わりはやって来る。もう変えようのない形で。
魂魄が飛んだ。
太公望の腕に抱かれながら、楊ゼンは薄れゆく意識の中で、病床でかわされたあの日の約束が、もう二度とはたされないことを知った。
・・・・これで、いいんだよ
記憶の中の優しい面影が、そう言ったような気がした。
そして初めて、涙を流した。
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しょうやさんのSSRに載せて頂いたものです。私の小説の第二作目。玉鼎と楊ゼンがいちゃいちゃしてる話で今の私からは考えられんですが(笑) はじめて書いたものが妲己×竜吉というユリ物だっただけに(誰が読むんだ。そんなん。でも女好きの人は読んでくれました〜。笑)、この小説が色々な方に感想を頂いたはじめての体験で、もうむっちゃ感動しました。鼻血吹きそうでした。ネットって偉大です。しょうやさんは偉大です。相変わらず少女趣味炸裂な文章で失礼しました。