仙人界の事情









仙人界には男が多い。
女の仙人・道士なんかは、数える程しかいない。
その為、ホモまがいのことをするやつがよくいる。(なんつーとこだ)
「うわー!落ち着け楊ゼン!!」
「なんで逃げるんですか?僕たち友達ですよね?」
「そ…それとこれとは全然かんけーないぞ!」
その日、太公望はいつものように部屋で眠ろうとしていた。
修行でくたくたになっていた太公望は、早々と布団に横になっていた。
そこへ、部屋に忍び込んできた楊ゼンが襲ってきたのである。
「だって僕たちもう大人だって言うのに、毎日毎日修行ばっかでなんにも出来ないじゃないですか」
「だからというて、わしは男とナニする趣味はもっとらんわ!」
楊ゼンの手から逃れようともがく太公望。
「女の子なんて滅多にいないですよ?ねえ、だから僕と…」
「うわーっ、いやじゃーっ!どうせするんなら、竜吉公主とがいいー!」
あたりかまわず叫ぶ太公望。
その叫びを、楊ゼンの唇がおさえた。
「んん…」
強引に唇をこじ開けて、楊ゼンの舌が入ってくる。
なんで男なんぞとキスせにゃならんのじゃ。
そう思いながらも、少し感じてしまう若い太公望であった。





「僕だって、どうせするんなら公主のがいいですよ」
すべての事が終わったあと、楊ゼンがぼそっと呟いた。
その身体は太公望によって傷だらけになっている。
「まったくあなたと来たら色気もそっけもないんですから。少しは色っぽい声とかだせないんですか?」
「出せるかんなもんっ!大体おぬし、自分でやっときながらその言い草はないじゃろうに。こっちだって、悲しくて涙が出たわ」
むすーっと、二人でそっぽを向く。
すっきりするにはしたが、なんだかいまいち満足できない。
脳裏に浮かぶのは竜吉公主の姿。
元始天尊に連れられて一度だけしか会ったことはないが、その人のことを太公望はよーく覚えていた。
美しい闇のような黒髪、陶器のように滑らかで白い柔肌、澄みきった空のように蒼い瞳。
気高く美しく、まるで女神のようなその姿を、太公望は忘れることは出来なかった。
「公主とやれんもんかのう」
「絶対無理ですよ。公主は仙界一の美女。僕たちには高嶺の花すぎる」
「あの身体を愛撫したら、どんな感触がするんじゃろう?どんな声をあげるんじゃろうか」
仙界のはずれにある鳳凰山に、弟子と共に暮らしている竜吉公主。
誰もが一度は抱いてみたいと思ってやまない、美しい仙女。
「師匠に聞いてみますか?」
「はあ?」
深い妄想に入ろうとしてる太公望に、楊ゼンが出し抜けに言った。
「公主は強いですから、そう易々には手が出せません。でも師匠のような十二仙だったら押し倒す事だって可能なんですよ」
「で、玉鼎は公主と?」
「抱いたそうですよ。無理やり」
あまりに意外な発言に、太公望は一瞬目眩がした。
無理やりって、そりゃ犯罪だろうが。
しかし公主も気の毒だ。あんなのに押し倒されたんじゃ、逃れようがない。
「公主はいい女だぞって、師匠言ってましたよ。あの様子だと、まだ会ってるんじゃないですかね」
「それでいいのか。公主は」
「さあ」
首をかしげる楊ゼン。
女神のように清らかな公主。
あの公主が汚されてただなんて。むらむらっと、太公望の中に沸き上がる嫉妬。
「決めた」
「え?」
「鳳凰山に行く!」
「ええー?!」
すくっと立ち上って、窓の外を見る太公望。
「修行は…元始天尊様にはなんていうんですか!?」
「何も言わんわ。黙ってでてく」
「そんな…」
言い切る太公望を、なかば呆れた顔で見る楊ゼン。
「欲しいものは強引にでも奪わねば、手に入らんぞ」
にやっと笑って、太公望が身支度を始めた。




鳥の声で目覚めた竜吉公主は、起き上がって服を着替えていた。
白く美しい肌には、昨日の夜に来た人物と愛し合った印がたくさん残っている。
仙界一の美貌を誇る公主の家には、男の訪問者が絶えない。
そのほとんどを追い返している公主だが、その中でも特に困るのは十二仙のように力が同等の者。
力ずくで迫られたら、逃れようにも逃れられない。
「公主様…」
こんこんっと、戸を叩いて弟子の碧雲が顔をだした。
「太公望…という方が訪ねてまいりましたが」
太公望と聞いて、公主はふと昔のことを思い出した。
元始天尊に連れられてきた、可愛い童。意志の強そうな瞳に、なぜか異様に惹かれるものを感じた。
「すぐに参る」
公主はそう言って、素早く服を身につけた。

 




太公望はあの後すぐに楊ゼンと別れ、竜吉公主のもとへ向かった。
鳳凰山に辿り着くと、すぐに公主の弟子に見つかり、広い客間に通された。
「公主様がいらっしゃいました」
しばらくして、弟子の一人がそう告げた。
ごくりと息を呑む太公望。
「待たせたの」
澄んだ甘い声が聞こえた。
美しい黒髪も、陶器のような肌も、空のように蒼い瞳も、なに一つ変わっていなかった。
いや、前よりも一層美しく見える。
気高く美しく、女神のように尊いその姿。何人も触れることを許さぬかのような凛とした力強い気。
強い…。
太公望は、公主の気を受けて一瞬ぞくっとした。
「二十年ぶりかえ?そなたと会うのは」
「そんなにたつのか。わしにはつい最近のことのように思える」
「子供の時間はすぐに過ぎる。いい男になったの、太公望」
公主に言われて、太公望は真っ赤になった。
自分のことを、公主は認めてくれている。
一人前の男として…?
もう昔のように子供ではない。
公主の美しさも、強さも、すべて分かる。
「のう、外へ行かぬか?」
「あ…ああ?」
美しさに惹かれて思わず公主に触れようとしていた太公望は、あわてて手を引っ込めた。
「こうして部屋で二人きりじゃと、妙な考えを起こしやすいじゃろう?私はそなたとゆっくり話しがしたい」
かああっと、真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
自分の考えていることなど、公主にはとっくに見抜かれている。そう思うと、無償に恥ずかしかった。

 




「水が…綺麗じゃ」
鳳凰山にある湖を見つめて、公主は呟いた。
透き通った冷たい水に手を入れると、身体の芯まで凍るような感触がする。
「手が赤いぞ。もう出した方がいいんじゃないか?」
公主の肩に、太公望が触れた。水とは正反対に、温かい手。
「ほら、こんなに冷たくなって」
公主の冷たい手を、太公望は自分の手で握り温めた。
柔らかい肌。
少しでも力を入れたら壊れてしまいそうな程に。
この華奢な体のどこに、十二仙と同等の力が秘められているのだろうか?
「太公…望?」
吸い込まれるかのように、太公望は公主の手に口付けた。
柔らかくみずみずしい肌。夢中になって太公望は公主の手に舌を這わせ、指をくわえて愛撫した。
この美しい身体が、もう他の男の手にかかったと思うと堪らなく悔しかった。
「ここではいかん」
その行為を咎める公主の口を、太公望の唇が塞いだ。
楊ゼンの唇よりも柔らかくて気持ちがよかった。
そのまま昨日楊ゼンがしたように強引に唇を開かせ、中に舌を入れる。
始めは抵抗していた公主も、太公望の背中に腕を回して舌を絡めてきた。
「もう…これ以上は駄目じゃ」
着物を脱がしかけた太公望の手を公主が押さえた。
「そなたを傷つけたくはないのじゃよ。あやつに見つかったら、大変なことになる」
「玉鼎のことか?」
「知っておったのか。いい男なんじゃがの、どうも嫉妬深い」
くすくすと笑う公主。
「今も会ってるのか?無理やりされたのじゃろう。嫌じゃないのか?」
「あの頃は自分が女だという自覚が足りなくての。無防備じゃったんじゃよ。玉鼎も若かったし、押さえ切れなかったのじゃろうて。今のそなたのようにな」
公主の言葉に返す言葉が見つからなかった。
そして、玉鼎の気持ちがなんとなく分かってきた。
「それに、そんなに嫌じゃなかったんじゃ。無理やりとはいえ玉鼎は優しかった」
恥ずかしそうに公主は顔を赤らめて笑った。
やっぱりこの人は女神のようだ。
無邪気な笑顔を見ながら、太公望は思った。女神のように広い心ですべてを受け入れ、許してくれる。
たとえ身体が汚されたとしても、この人の気高い心までは奪うことが出来ない。
「好きだ、公主」
だったらせめて、公主の身体だけでも感じたい。
そう思って、公主の耳に囁いた。
「部屋に、戻ろうか」
公主は立ち上って言った。
それが暗黙の了解だということに太公望はすぐ気がついた。




 

部屋に入って二人きりになると、太公望は一気に公主を押し倒した。
公主の美しい肌に口付けて、全身をたんねんに愛撫していく。
今を逃したら、もう二度と触れられないかもしれない身体。
「明日には帰るのか?」
太公望の胸にもたれながら公主が訊ねた。
「そりゃ、ずっとここにいたいがの。元始天尊様、怒ってるじゃろうな。こんなことしてるなんてバレたら、破門になるかもしれん」
「そんなことないじゃろうて。元始天尊はそなたに惚れてる」
「はあ?」
「そなたの力にな」
びっくりして一瞬固まった太公望を見て、公主が可笑しそうに笑った。
むーっと公主を睨む太公望。
「大きくなったの」
太公望の頭に手を回して、公主が軽く口付けた。
元始天尊の弟子でなかったら、二十年前のあの日、自分の弟子にしていただろう。
もっと早く、元始天尊が見つける前に会えていたら良かったのに…本気で公主はそう思った。
「あ…」
耳たぶに、太公望がそっと口付けてきた。そのまま首筋まで舌でなぞっていく。
「公主」
「どうした?」
「いつかまた、ここに来てもいいか?」
真剣な顔で太公望が聞いた。
「玉鼎がいない時にな」
公主の言葉に、深いため息をつく太公望。
玉鼎から隠れてコソコソ逢い引きするなんて、それじゃまるで間男だ。
楊ゼンに情報を提供してもらわなければ。
ああ、そうだ。
その前に楊ゼンに自慢してやろう。
本当に公主はいい女だと…。













 

 

あと書き

長くってすいません。なんか太×竜なのに玉鼎さまでしゃばってる。私の公主さまのイメージって、なんかこんな感じなんですよ。本命は玉鼎さま一人なんだけど、いい男には目がないっつーかなんていうか。原作もちょっとそんな感じですよね。(あれ、違ったっけ?違ってたらゴメンなさい)

 



僕たち男の子〜〜〜♪ と歌いたくなるような、太公望の男の子っぷりがいいですな。
この公主様はとても開放的ですね。十二仙の方々、でも無理やりはいけないよ?(笑)
終わり方がとても好きです。とほほ、って感じなのに、「自慢してやろう」とか思ってる太公望が!(草子)




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