回線の向こうに             



ブツッ……

『――――おい、赤雲聞こえるか?』
『はい、太公望さま、感度良好ですわ』
『んでは、始めるぞ』
『ええ、お願いします』

超小型無線のテストを終えた、太公望と赤雲。
話の発端は数日前にさかのぼる。




「楊ぜんさまについて教えていただけません?」
「へ?」
いきなりの赤雲の質問だった。それをモロにくらったのは太公望。
「いきなりだのお……」
「あら? 教えてくださいませんの?」
「いや、別に企業秘密でもなんでもないから教えれることは教えるがのお……」
けれど赤雲の真意が掴めない太公望。
「じゃあ教えてください」
「どういうコトをだ?」
「全部」
「……なんちゅう具体性のない質問だ」
「そうですね、じゃあ具体的に聞きます」
「うむ」
「私と楊ぜんさまとどっちが碧雲に相応しいと思います?」
「ん? んああ?」
太公望が想像できた範囲を超した質問だった。

「つまり、おぬしは碧雲に惚れておって、その碧雲が気にいっとる楊ぜんの情報が得たいわけだな」
「まあ、簡単に言いますとね」
太公望の目の前で、腰に手をあて、足を大きく開いて立ちはだかってる赤雲は実にパワフルだ。
老人の太公望にはうらやましい限りである。
「で、どうです? 冷静な第三者から見て、私と楊ぜんさまどっちがいいと思います?」
「…………」
「太公望さま?」
急に黙り込む太公望。
「……おぬし、かのお」
「え?」
そして突然の発言。どうやら真剣に考えていたようだ。
「うむ、おぬしのほうがいいんではないか? 楊ぜんに比べたら」
「理由……」
「おぬしのほうが精神的に安定しておる。自分一人で立っていれそうだし、も一人ぐらい支えてやれそうだ。自立さえ危なっかしいようなヤツよりよっぽどよい」
「へえ……」
太公望はこれ以上ないくらいきっぱりと言い放つ。
しかも、かなり整然とした返答。
「なんだ?」
「いえ、とっても満足」
赤雲はにっこりと笑う。こういう表情をみていると実に可愛らしい少女だ。
「んじゃ、これでよいな」
太公望は話を切り上げて、その場を立ち去ろうとする。
その太公望の服のはしを赤雲がしっかりと掴む。
進行を止められた太公望。
「お、おい……」
「でも私の精神的満足だけじゃダメだと思いません?」
「へ?」
「現状も改善しなきゃ……」
「何を……?」
「だから協力してくださいね、太公望さまっ」



そして現在。

「……え?」
突然だった。
「太公望師叔?」
あまりに突然すぎて、太公望はちょっと失敗したかもしれないと後悔した。
「楊ぜん……」
しかし、もう後には引けない。
「しばらく……このままで……」
抱きつきながら太公望は楊ぜんの耳元でそう呟いた。
「師叔……?」
当然ながら、楊ぜんは戸惑った声を発した。



「碧雲に、楊ぜんと誰かとのラブシーンを見せつけるのは分かるが、なんでわしなのだ?」
赤雲との打ち合わせの時の会話。
「相手が男のほうが幻滅度高いじゃないですか」
「確かに……」
と、言うわけで妙に納得してしまい、太公望は今楊ぜんに抱きついていたりする。
見事、赤雲の手足として働かされていた。
『よし、今だ! いい感じだぞ。踏みこめ!!』
『そ、それが……碧雲が見つからなくって……』
『な、なにい――――! お、おぬし2度目は無いと言っておいただろう!』
『も、もうちょっとそれをキープしておいてください! すぐに見つけて向かいます!』
『き、キープったって……』

「師叔?」
「あ、あ……ええっと……」
楊ぜんに抱きつきつつ、太公望は思案を巡らせる。
しかし、どう考えてもこの状態を保つのはかなり辛いものがある。
「どうなさったんです、急に……?」
現に、楊ぜんはさっきから太公望の行動に疑問を投げかけてくる。
これは太公望を振り払うのも時間の問題だろう。
「あ、あ……」
「師叔?」
「あ、愛している! 好きだっ、楊ぜん!!」
咄嗟に口から出た言葉だった。
「え?」
「お、おぬしに少しでもわしを憐れと思う気持ちがあるのなら、もうちょっとだけでいい……このままで居させてくれ…」
「師叔……」
なにやら展開に無茶がある。
が、楊ぜんもこれで無下に太公望を押しのけるわけにはいかなくなった。
なんとか抱擁の状態が保てほっと胸を撫で下ろす太公望。

『おい! ほんっとうに早くせんかあ!! 結構ツライぞっ!』
『だって―――――!! 碧雲がいないんですもの――――』

「…………」
「…………」
さすがに間がもたない。
「あ、あの……師叔……」
「よ、楊ぜんっ、あのなっ……」
しかし、赤雲が碧雲を連れて踏みこむまでは、なんとしてでもこの状態はキープしていなければならない。
「……いてくれ」
「へ?」
「だ、抱いてくれ!!」
しまった、突飛すぎた。
と思いはしたが当然後には引けない。
「い、一度だけでよい! 終われば全て忘れる! おぬし2度とこんなことで迫らん!」
とにかく、同情心を煽る方向に持っていこうとしている太公望。
とにかく力ずくで振り切られたらどうしようもないのだ。
それだけは避けなければならない。
思いっきり惨めさを強調して、とりあえず抵抗だけはさせてはならない。
「愛しておった……初めて会った時から。こんな想いは間違っておる。分かっている……だから耐えてきたのだ。自分だけの胸にしまって……」
太公望の語りを楊ぜんは黙って聞いている。

『太公望さま!! 居ました! 碧雲いました!!』
『本当か? よし! 早くせい、あと少しならもつ!』

「……す、すまん、こんな勝手なことを」
「いえ……」
とりあえず今は、太公望を押しのける気配はない楊ぜん。
なんとかいけそうだ。

『今、むかってます! もう間もなく着きますわ!』
『よしっ! わかった!! こうなったらいくトコまで行ってやるっ、思いっきり演出してやるわっ』

「おぬしへの迷惑も考えていなかった、けど……最後に、これだけ、これだけ許してくれ……」
そう言って、太公望はゆっくりと楊ぜんに顔を近づける。
キスシーンで演出効果増大を狙う太公望。
ふと目に入った楊ぜんは不思議な表情をしていた。
「……?」
不意に太公望の頬に、楊ぜんの手が添えられた。
「――――!!」
かと思うといきなりの楊ぜんのほうが太公望に口付けた。
これには太公望が驚いた。

そして、その時―――――

「太公望さま――――碧雲ですっ、お呼びですか?」
「は、入りますっ」
赤雲と碧雲の明るい声が響き、まさに太公望と楊ぜんのキスシーンに二人は踏みこんだ。
「!!」
「!」
楊ぜんと碧雲が同時に衝撃を受けたのが分かった。
反射的に楊ぜんが顔をあげようとした。
しかし、逃がさないように、太公望は楊ぜんの頭を抱え込む。
「よ、楊ぜんさま……?」
碧雲は碧雲で呆然とした顔をしている。少しよろめいて赤雲に支えられた。
「っ!……しつれいしましたっ!!」
かと思うと、あっという間に碧雲はその場を走り去ってしまった。
一瞬間をあけて、赤雲も碧雲の後を追った。
その一瞬、太公望と赤雲の目が合い、互いに成功を確認しあっていた。



「碧雲……」
呆然と立ち尽くしている碧雲の後ろから、赤雲は両肩に手を置いた。
「……ショックだわ」
碧雲は赤雲を振りかえって、呟くように言った。
「あーゆー趣味の人だったのよ。早く分かってよかったじゃない」
「憧れてたのに……」
感情の起伏が意外に激しい碧雲には、すでに泣きそうだ。
「なんだかすっごく私が可哀相――……ムダな憧れだったのね……」
本気で泣いてしまいそうだ。
そんな碧雲の様子は本当にかわいい。
「よしよし」
なだめるように頭を軽く撫でてやる。
「赤雲――……」
「っ!」
それをきっかけに碧雲は赤雲に抱きついて、赤雲の胸で泣き始めた。
赤雲はそっと抱きしめ返す。
かなりオイシイ状況だ。
「碧雲……」
この状況が永遠に続くことを夢見てしまう赤雲だった。



「……す、すまん、楊ぜん」
一方、太公望と楊ぜん。ようやく太公望は楊ぜんから離れ、距離をおいた。
「赤雲たちには、これはわしの一方的な行為だと言っておくから。おぬしは何を心配することもないぞ」
楊ぜんの肩をポンポンっと叩きながら、太公望は寝台から降りようとした。
約束ごとも果たせ、かなりほっとしている。
「!!」
が、次の瞬間、ベッドに叩きつけられた。
さらに楊ぜんに上に乗られる。
「……へ? 楊ぜん?」
「太公望師叔……」
楊ぜんの声色が妙に優しい。
「な、何……?」
「何って……さっきおっしゃったじゃないですか」
「な、何を……?」
「抱いてくれ……と」
「っ!!……い、いや、え? ああ?」
あまりにも突然すぎて混乱している太公望。
「あ、そうか、そうだな……い、いや、楊ぜん、さっきの口付けだけで十分だっ! ありがとう、ほんとうにっ!」
なんとか考えを整理しつつ、楊ぜんの体を押しのけ様とする太公望。
しかし、びくともしない。
「太公望師叔……もう辛い想いなさることはありません。これからはなんでも僕に要求してください」
「へ?」
「師叔……僕もあなたを愛してます!」
「――――!!」
太公望は声にならない叫び声をあげた。

『お、おいい! 赤雲! 助けろ!! もう1回踏みこんできてくれっ』
『…………』
『おい! おいってば!! もしもし! 赤雲!?』
『…………』

「ちょ、ちょっと楊ぜん! もうよいってば! そんなに同情してくれんでもっ」
「同情なんかじゃありません! 言葉で信じてもらえないようなら、行動で信じてもらうしかないようですね」
「だああ――――!!」
さらに墓穴をほった太公望。

『せ、赤雲――――!!』
『……ごっめんなさーい、太公望さま』
『へ?』
『私いま、手が離せないんですの、自力でなんとかがんばってください。んでは』

ブツッ……


回線の音が完全に途切れた。
「お、おい!! おい――――!」
「師叔……愛してます」
「のわあ――――!!」


「赤雲、赤雲〜」
「よしよし」
未だに泣きつづけている碧雲をなだめながら、赤雲はこれ以上無い至福を味わっていた。

無線機の向こうで起きていることなど、彼女達の空間には何の関係もないようだ。

 




なが――――
誰が読むねん、こんなん。
でもいいの……もお、赤碧が書けただけで、
もお……(陶酔)
めちゃくちゃシアワセでした。
卑怯でゴメンよお。



草子の感想

赤雲にいいように使われる太公望が
アホでマヌケで激ツボで理想的!!(笑)
赤雲最強!
ああもう、この二人がいれば男なんて
いらないね・・・・
砂糖大根さん、あっりがとー!
右の絵は草子画。からんでなくってごめん。
カラダで勝負な赤雲(笑)





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