たとえ、あなたが僕を見なくても。
たとえ、あなたが過去を見つめていても。

それでも僕は、あなたを想わずにはいられない。

泣かないで、悲しまないで。


―僕ガズット、側ニイルカラ―

 










いつか一緒に・・・





目の前で安らかな寝息をたてている青い髪の少年を見ながら、玉鼎は不安を覚えていた。
元始天尊の命令で弟子として育てることになった通天教主の息子、楊ゼン。
誰もが一瞬目を見張るような美貌を持つ天才道士。
その楊ゼンが、最近恋をしたようなのだ。
相手は自分の恋人、竜吉公主。
小さな頃からずっと楊ゼンの面倒を見ている、彼の姉・・・いや母親のような存在の公主。
楊ゼンが好意をよせるのも無理からぬことだ。
「公主、愛してます」
自分の留守中に訪ねてきた公主にそう囁いて、無理やり押し倒して身体を重ねていた。
そのことについて玉鼎は気づかぬフリをしているし、公主も楊ゼンも何事もなかったかのように過ごして
る。
ただ、楊ゼンの公主を見つめる目には隙さえあればまた押し倒そうとしている風な様子があり、あきらかに玉鼎に敵意を持っているような素振りを見せることもしばしばだ。
公主は公主で、そんな楊ゼンに脅えて玉鼎の側を離れないようにしている。
三人の関係は、微妙に崩れかけている。
もしも誰かがあの日のことを口に出したら、いっぺんに崩れ去ってしまうだろう。
でもそれよりもっと辛いのは、公主が時より見せるあの顔。
愛し合っている時に見せる寂しそうな顔。
恋人を裏切ってしまったという罪悪感からか、公主は今までよりも激しく玉鼎を求めるようになった。
自分から唇を重ねては、玉鼎に抱いて欲しいと願ってくる。
―愛してるよ、玉鼎―
そう言って寂しそうに笑う公主。
抱きしめたら壊れてしまいそうな程に細い華奢な身体。
消えそうな儚い微笑。
すべてが愛しい。
「玉鼎」
竪琴の調べのような美しく甘い声。
公主が訪ねてきたのだ。
「おや、楊ゼンは眠っておるのか。こうして見ると、本当に可愛いのう」
ふっと微笑む公主。
公主にとって、楊ゼンは弟のようなもの。
たとえ無理やり抱かれたといっても、それでも大切なものであることに変わりはない。
安らかに眠る楊ゼンの顔を撫ぜる公主の腕を、玉鼎はつかんだ。
公主をとられるんじゃないか?
いいしれぬ不安が襲いかかってきて、たまらずその美しい唇を奪った。
「や・・・楊ゼンが起きる」
「見られたってかまわんだろ」
抗う公主の身体を無理やり床に押し倒し、乱暴に服を剥いだ。
陶器のように滑らかで白い柔肌を夢中で愛撫する。
誰にも渡さない。
俺だけの公主。
「やめっ・・・玉鼎っ!」
公主の悲鳴で我に返る。
自分の腕の中で脅えたように震えている公主。
「すまん。悪かった」
震える公主の身体をぎゅっと抱きしめた。
泣きじゃくる公主の細い肩には、赤い痣ができている。
その痣にそっと触れると、公主がびくっと身体を震わせ玉鼎を見上げた。
「痛むのか?」
「少し」
涙に潤んだ青い瞳。
あんなことをされても、それでも信頼しきったかのように無防備に玉鼎に身体を預けている。
「何かあったのかえ?」
「いや。気にするな」
心配そうに見つめてくる公主の髪を掻きあげて軽く口付ける。
「お師匠さま」
楊ゼンが寝ぼけたように起き上がった。
「公主っ、来てたんですか!」
公主の姿を見つけて嬉しそうな声を上げる楊ゼン。
だが次の瞬間、真っ赤になって後ろをむいた。
はだけた服の間から見える公主の胸。
そこについている赤い印。
玉鼎のつけた愛。
あの日、嫌がる公主に無理やり自分がつけたものとは違う。
これでもう、この人とは会えない。
そう思いながらもやめられなかった。
公主の悲鳴、涙、そして脅えるように自分を見つめる青い瞳。
裏切ったんだ。
通天教主の息子・・・妖怪である自分をなんの差別もしないで育ててくれた師匠も、美しく気高い愛しい人も。
自分のせいで、公主は師匠を裏切ったという負い目を背負うことになった。
でもね公主。
それでも僕は、あなたを想わずにはいられない。








師匠が死んだ時、悲しみよりも喜びが心を支配していた。
―ああ、これであの人は僕のものだ―
そう思ってる自分が大嫌いだった。
醜い自分。
泣きじゃくってる公主の身体を抱きしめる。
公主は嫌がるどころか、反対に強く抱きかえしてきた。
誰も見ていないのをいいことに、その身体に口付けて、舌を這わせていく。
―玉鼎・・・―
公主がそう呟いた。
いいですよ。
僕を師匠だと思って、存分に甘えて下さい。
たとえ師匠の代わりでも、あなたの側にいられるのならば僕は幸せです。




たとえあなたの心が僕になくとも。

たとえあなたに、僕の心が伝わらなくとも・・・。

 














あと書き

玉×楊の人ゴメンなさい。なんか玉鼎さま、すっごく嫉妬深くなっちゃった。私の玉鼎さまのイメージとは随分かけ離れてんな。公主さまも。




この楊ゼン激ツボっす―――――――!!!!! ああ、涙でちゃう――――(笑)
そうだ! 優先順位は師匠よりもやっぱオンナだろうっ! この小説でにわか楊ゼンファンになりました(マジ) そして「とりあえず押し倒しとけっ!」というノリが素敵すぎ。読んでてとても楽しかったです。
オトコとオンナはそうでなくっちゃねー!! (草子)

 

 

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