「夜も更けてまいりました。ご近所の迷惑にならぬよう、音量を下げてお楽しみ下さい。
なお、この物語の時間設定は封神計画完全終了後となっており、仙道と神が入り乱れ、西王母様の宴会にて、
座興で芸をしているということになっております。御了承下さい」
『いらっしゃ〜い』
3・2・1・キュー!
「司会の太公望じゃ」
「助手の白鶴童子です」
「今日も新婚さんを迎えて思いきり冷やかしてやるぞ。では、まず一組目・・・」
調子よく言いかけた太公望の袖を引っ張って、白鶴童子が耳打ちした。
「スース、違いますよ。面白おかしい話を聞くだけですって。冷やかしは余計です」
「桂○枝はいつも冷やかしどころか、ぎりぎりでやっと洒落になっている『からかい』までしておるではないか。
わしが冷やかして楽しんでもバチはあたらんわ」
太公望がいつもやっている事とあまり変わりがないような気がする。だから選ばれたのかもしれないが。
「では、気を取りなおして・・・新婚さん、いらっしゃ〜い」
観客(サクラ含む)達の結構ノリがいい拍手に出迎えられて、大男と小柄な美人がステージに上がってきた。
「ぶっ!ぶぶぶ、武成王!?」
太公望は噴き出し、白鶴童子はだらんと腕を下げて(当社比0.6倍)目を丸くした。
年季の入った仙道はたいして変化はないが、若者系仙道や神は大体太公望と似たような反応をしている。
一方、大男は憮然として照れまくり、美女は頬を染めてにこやかに微笑んでいる。口元を袖で隠す様が、少女めいて可愛らしい。
太公望達がいつまでたっても口を開かないので、仕方なし、と、黄飛虎は照れ隠しに頭を掻くのをやめ、口を開いた。
「・・・・・・新婚なんて言葉が合わないのは自分が一番よくわかってるけどよ、くじを引いてこうなったんだから仕方ないだろ」
ぷい、とそっぽを向く飛虎に、観客から野次が飛ぶ。
「照れんなよ!飛虎兄貴!」
「そーそー。子沢山でも『らぶらぶ』なんだからぴったりだぜ!」
「てめえらっ!!からかうんじゃねえ!!」
飛虎が怒鳴り返した事で観客はかえってドッとわいた。完全に酒のつまみである。
(*注:大抵の仙道はいつも酔っぱらっているようだ。が、別にだらしがないわけではない。人生長いので、酔っぱらってる時間も長いだけである)
こんなものは素直に付き合っていないでサッサとトンズラこくのが一番なのだが、
生来面倒見がよく、義理堅いこの男には、後ろめたい思いが勝って出来ないらしい。
「ほら、サッサと進めろよ」
結局、協力してしまっている。
「う、うむ。では2人の馴れ初めから聞かせてもらおうかのう」
「馴れ初めったってなぁ」
「私達の結婚は、周りの人がどんどん進めていってしまいましたものね」
「そうだよな。なんか結婚するまでは堅苦しいしきたりばっかで、2人で生活を初めてからの方が俺としては印象深い――――」
「うおっほん!げほん!!ごほごほん!!!」
「いやー熱いですねー」
飛虎のデレデレした声は、太公望の咳払いと白鶴童子の羽ばたきによって遮られた。
「・・・・・・話をしろって言ったくせに、なんでさえぎるんだよ」
飛虎はジト目で太公望をにらみつける。
「おお、すまんのう。で、どこまで話したかな?」
「確か、初夜の話でしたね」
『話の誘導がナイスだぞ、白鶴!これで奥様にも大ウケな話が聞ける!!』
太公望は心の中で親指を立てた。上手くいけばR指定だ。
反対に、飛虎は思い切り渋い顔になった。
『せっかく飛ばしたのに!なんでその話題を振るんだよ!』
飛虎にとっては、初夜はこっぱずかしい思い出があるので、避けて通りたい、二度と触れたくないとの思いが強かった。
どうやって話をはぐらかそうかと真剣に考えていた(なにせ相手は崑崙一の策士だ)ので、
賈氏がくすくすと笑いだしたことに気がつくのが遅れてしまった。
「何か面白いことでもあったのか?賈氏殿」
すかさず太公望が話を展開させる。
さすがは名軍師、一瞬の隙も逃さない。(しかし能力の使いどころが全く適当ではない)
「初夜はなかなか寝付けませんでしたの。なぜだかお判りになります?」
賈氏は照れつつも、しっかりと意味深長な視線を太公望に送った。奥方はなかなか乗り気である。
「うーむ、初夜だしのう。2人とも緊張しておったのか?」
「それもありますけど・・・この人がなかなか休ませてくれなかったんです」
「おおおおおおおっ!!!!」
待ってましたとばかりに観客がどよめく。
その音で飛虎は我に返った。とっさに太公望の方を見て、何に反応したのか確かめようとする。
「な、なんだ?」
かなり間抜けな顔で太公望を見やると、彼はニヤリとじじい笑いをしていた。
「武成王、お主も好きよのう」
「まるっきり悪代官ですよ師叔」
白鶴童子が冷静につっこむ。太公望を見た瞬間の顔のままにボケていられれば良かったのだが、
不幸なことに、飛虎は何があったか悟ってしまった。
「俺はそんなはげ――――」
「奥方の美しさに目がくらむのは仕方がないが、初日からぶっ飛ばしてはいかんだろう」
「ぶっ!ぶっとばすぅ?」
飛虎の抗議はあっさり無視された。賈氏は相変わらず楚々として、
「あら、太公望さま、それは違いますわ。逆ですの。この人、私に遠慮していたからとても『前置き』が長くて――――」
「賈氏っ!」
飛虎はあわてて止めようとするが、のろけが楽しくてたまらない奥様は、全く頓着していない。
『仕方がねぇ、ここは担いででも賈氏を連れて退場しなければ・・・!』
飛虎はキッ、と、決意の炎を瞳に宿して賈氏を見た。その時、
『ビュッ!』
空気を裂く鈍い音がして、梱仙縄が飛虎の体に巻き付いた。
「な、なんじゃこりゃ!」
「ナイスフォローだ!懼留孫!!」
手足のみならず口まで戒められて、飛虎は床に転がった。
「まあ、あなた!大丈夫?」
賈氏は駆け寄って「抱き起こす」などという無謀な事を試みた。当然、持ち上げるどころか、3.03ミリも動かせない。
「フフフ、武成王よ。素直に吐けば縄をといてやるぞ」
太公望は、下からライトを当てる構図で不気味に笑った。
『くっそー!俺の力でも切れないなんて!』
力を入れても、縄が微妙に緩んで受け流されてしまう。
2・3度挑戦したが、全く手応えがなく、飛虎はあせりつつ計算した。
『このままスマキでいるか、あの話を暴露してからかわれるか・・・
否!絶対だめだ!あのことを話して一生からかわれ続けるくらいなら、ここで50年ぐらいスマキになってた方が絶対ましだ!』
飛虎は黙り込むことを決めると、自分からごろりと寝そべった。
まわりがぎゃあぎゃあ騒がしいが、一切無視する。空白になった頭の中に、自然とあの夜のことが浮かんできた。
新婚初夜、飛虎は精神的に疲れ果てていた。
多すぎる親族の堅苦しい挨拶に、自分も堅苦しく答えなければならなかったからだ。
だからいくら美人と評判でも、今夜は妻に会わないで休みたかった。
とりあえず、酒でも飲んでくつろごうと、義兄弟達の部屋へ向かった。が、それは大誤算で、
「よお兄貴!まだこんなとこにいたのか」
「あんまり新妻を待たせてはいけないでございますよ」
「酔ってるのか?よし、送ってってやろう。呉謙、担ぐの手伝ってくれ」
義兄弟達は、冷やかしつつ寄ってきて、飛虎を追い出そうとする。
「あのなっ!べつに俺は酔っぱらっちゃいねえよ!堅苦しい式のせいで疲れたからここで休ませてもらおうとだな」
飛虎は説明を試みるが、彼らはあっさり受け流してしまう。
「ま、初めての夜だし、お互い初対面な訳だから緊張するのもわかるけどよ」
黄明がぽんぽんと肩を叩く。
「やはり最初に頼りになるところを見せた方がいいでございますよ」
周紀が世の中悟ったようなジジイ台詞を吐く。
「早く嫁さんの所に行ってやれって。心細い思いさせてちゃかわいそうだろ」
竜環がさわやかに笑って親指を立ててみせる。
『よっ!憎いね色男!!』
全員(呉謙は除く)に声をそろえて冷やかされ、飛虎はもう怒る気力もなくした。
「・・・・・・戻るわ、俺」
兄弟達の騒ぐ物音を背中に、飛虎は寝室へと向かった。
うんざりしつつ部屋に入ると、ベッドの上にひそやかな人の気配を感じた。
天蓋から垂れ下がった布をそっと持ち上げてみると、小柄な女性が袖で顔をかくし、少し足を崩して座っている。
緊張しているらしく、背筋はピンとのびきっていた。
『こりゃ・・・コトに持っていくのに手こずりそうだな』
飛虎の鼓動も、心持ち早くなった。経験がないわけではないが、素人を相手にしたことはなかった。
『自慢じゃないが『俺』はでかいからな。痛い思いさせるのは嫌だし・・・こんなに小柄で・・・壊れないかな?』
考えつつ、ゆっくりと閨房に入る。飛虎は彼女が怯えるかと思ったが、意外にもかえってリラックスしたように見えた。
それに勇気づけられて、飛虎は積極的に手を伸ばしてみた。
膝の上の手に自分の大きな右手を重ねると、初々しい妻はこちらに向き直った。
「賈氏・・・」
そっと名前を呼ぶと、おずおずと顔を上げようとした。
促すように、飛虎のもう一方の手が顔を隠している袖にかかる。
ゆっくりと、朝露に濡れた花が咲くように、賈氏の顔が露わになった。
飛虎は、思わず息を詰めた。物怖じしない、大きく見開かれた瞳に、蕾のような唇、ほっそりとした顎のライン。
まさに噂に違わない――――、
「なんとも鮮やかな花だな」
飛虎の感嘆の言葉に、賈氏は顔をほころばせた。
飛虎も無邪気に微笑んで、賈氏を膝の上に抱き上げた。妻はもうすっかり安心して、夫に体を預けている。
軽く唇を触れ合わせ、顔の輪郭をなぞるように愛撫しながら、飛虎は上体を傾けていった。
飛虎の指も唇も、あくまでも柔らかく、繊細な動きで妻の体をなぞる。
賈氏にはそれが自分の緊張をほぐそうとしているように感じられて、
今まで感じたことのない感覚に戸惑いつつも、喜んで内からくる熱さに耐えていた。
しかし、このゆっくりとした愛撫は、飛虎にとっては半分時間稼ぎだった。
緊張しているのか、未だに『飛虎』はミニマム状態だったからである。
妻の息が熱を帯びてきて、かすかな声まで漏らすようになったのに、なかなか自分は持ち上がらない。
上半身の方もパターン化してきてしまい、仕方なく下半身への進撃を開始した。
掠るだけで花は潤み、露を滴らせるというのに、蜜蜂は周囲を徘徊するだけで、肝心の針が使えなかった。
「あ、んんっ!」
賈氏が初めて声を上げた。どうやら指だけで達してしまったらしい。
皮肉なことに、彼女が失神した瞬間、飛虎はやっとマックスになった。
しかし、賈氏はもう意識がない。
「・・・・・・どうしろって?」
結局、飛虎は自分で諫めるしかなかった。やっと落ち着いて眠ろうとした頃、外はもう白み始めていた・・・・・・。
「なーるほど、言いたくなかったのはこういう訳か」
太公望の声が意外と近くで聞こえて、飛虎は我に返った。
にやにやとした視線の先をたどると、白くて四角い布が張ってあるのが見えた。
それに当たっていた光が、収縮して消える。光の出所は布から少し離れた所の長方形の箱らしい。
おかしな事に、その箱から伸びた紐の多くが飛虎の頭の上に集まっている。
「モ、モンモガモ?(な、なんだこりゃ?)」
飛虎が訝しげに見ると、不気味な笑い声が影と共に被さってきた。
「これぞ太乙珍発明!夢枕バク君だ!人の夢を映画のように写せるという映像宝貝!趙公明は千年かかったが、
私は516年と・・・ええと、7ヶ月で作ったぞ!」
太乙真人の高笑いを聞きながら、飛虎は愕然とした。
『見られたのか?見られた・・・見られ・・・み・・・・・・・』
頭が白くなったあと、飛虎は怒り狂って、スマキのまま起きあがろうとし、さらに下へ転げ落ちた。
(*注:みなさんご承知の通り「新婚さんいらっしゃい」のステージは、トークする場所が三段くらい高くしてある。桂○枝もよく落ちる)
「ふがむぅっ!」
このくらいでは気絶もできない頑健さを、今、彼は心から呪った。
観客達は興奮冷めやらず、口々に勝手なことを言っている。
「すごかったなあ、あの宝貝!」
「武成王はもっと野獣のように責める『たいぷ』かと思っておったがのう」
「いやいや、この男は図体に似合わず繊細でな」
「子供達は離しておいて正解だったな」
『武成王・・・おかわいそうに・・・奥様は映写が始まる前に避難して頂きましたから、安らかに成仏なさって下さいね』
白鶴童子は同情の涙を流しつつ、密かに合掌した。
後日談
「次はちゃんと新婚さんを呼びたいのう、白鶴」
「まだやる気ですか?師叔。っていうか、新婚さんなんてこの高齢者の群にはいませんよ」
「ふふふ、だから誰かと誰かをくっつけるのだ。コントだけでなく、結納、結婚式、色々楽しいイベントができるぞ」
「・・・・・・暇ですよね、仙人て」
あとがき
と、ゆーわけで、次は「聞黄」だ!多分!!(せーのっ「聞黄の黄は黄氏の黄!」)
製作裏話
達夫「あのさ、この間、あんまり暑いから短パンだけで台所仕事してたんだ。
でも、なんか色々『はねて』くるし、ウォークマン持ったままじゃ仕事しづらいからエプロンしたんだよ。
エプロンならポケットにウォークマン入るしね」
友人A「・・・・・・・・はだかエプロンか」
達夫「思ったより楽しくなかったよ」
友人A「ったりめぇだっ!!あーゆうのは可愛い女の子にしてもらってこそ楽しいんだぞ!
一人しか居ない部屋で、しかもお前がやって楽しいわけないだろう!!!!」
達夫「失礼な!はだかエプロンが難しい(どういう意味で?)と言う事は解ったんだから無駄じゃないだろ!」
友人N「・・・・・ふむ、新婚さんか」
達夫&友人A「ゑ?」
友人N「達夫、この間頼まれた小説は新婚さんでいいな?」
達夫&友人A「なにいっ!」
達夫「ローディストにとってはある意味18禁より恥ずかしい『新婚さん』を!?」
友人A「平然と執筆宣言すんなああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
草子の感想
ああ・・・なんと明るく健康なエロ!(爆笑)
ひいい! 最高です!(涙目)
ノリノリの太公望とか、絶妙な誘導のツルとか、繊細な飛虎とか、奥様な賈氏ちゃんとか
なにげにイイ味だしてる十二仙の皆さんとかもう笑えて笑えて涙出ました(笑)
あああ・・・封神の裏小説でまさかこういうのが拝めるとは思わなんだ。本当に感動。
・・・・・こういうノリいいなあ(←本気ではまったらしい)
もっとみたいなあ・・・
この太公望、もう身もだえるぐらい好きです。大好きです。「うまく行けばR指定だ!」ってね(笑)
新婚さんいらっしゃいという設定もスゴイし。
まあ、なんだ。
オヤジ、元気出せよ?(笑)
郵便配達夫さん、その友人Aさん、本当にどうもありがとうございました!!!!
この小説をうちに載せられて心からうれしいです(笑)
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