私たちは共犯者。
時計を、同時に止めて。
安らぎの中に身を隠している。













Cradle















気だるい空気が、その部屋を支配していた。
窓際の寝台には、蹲って眠るかたまりがふたつ。
月明かりに照らされている。
薄桃の髪と、翡翠の瞳。



──どうして、拒まなかったのだろう。



翡翠の瞳。



後悔はしていなかった。
あの時、自分も感じていた。
これは、彼女の望んだ結果。
罪の残り香が全身を取り巻いている。



首筋に残された紅い痕。
身体の奥をなぞられた感触。
喘ぎつかれて嗄れた喉も。



理由はいらない。



これは証拠なのだ。
消し去る事のできない、消し去りたくない事情の残り。
そして、現実だと物語る。
瞳に映る薄桃が。
ひとつ減った、指輪が──





薄桃の髪。
寝息をたてる翡翠の瞳の。
漆黒の髪を掴んで。
優しい、口付け。
それだけで思い出す。

ふたりだけの、事情──



白い腕をとって、ゆっくりと唇を這わせた。
それだけで、びくっと跳ね上がる。
唇が、何か言いたそうに小さく開閉していた。
手は胸のあたりにさ迷わせる。
敏感な個所に爪が触れた。

「あ」

不意に、零れた声。
それは僅かに上擦っていた。
堪らない。

「可愛い」

唇を、重ねた。
最初は軽く、音を立てて。
それから、深く──





翡翠の瞳の、先刻より少し前。
部屋の隅の鏡台には、香水の小さな瓶がひとつ。
月の光を浴びて、長い影を落としている。
蓋は開いていた。
零れる花の匂いは、彼女のいつもの匂い。
噎せ返るような、花、花、花──

きっと、あの時はそれに酔わされた。
そしてこれは、ただの過ち。

そうでしかないのに



伸びをした指先に、こつんと何かが当たった。
行為の際、妲己がひとつひとつ外した指輪。
それをかき集めて、つまんで眺めた。

「──ねぇ、それちょうだい」

突然伸びた手に、目の前の指輪を掴まれる。

「──!起きて」

「コレ。いつも、薬指にしてた」

指輪を月に翳す。
それは、縦に長い石が埋め込まれた銀色のもの。
公主は頷いた。
とても、穏やかな気分だった。
妲己はそれを指にはめる。
前に公主がはめていた時と同じ。
左手の薬指に。





此処には、何も無かった。
過去も未来も、何も。
時は止まっているのだ。
そして、誰もいない。
けれど独りでもなかった。
此処には、相手の温度がある。







ゆらゆらと揺れ、沈んでいく。

そっと波打つ快楽の海へ。

揺籠に抱かれて。













END.







あとがき。

現実逃避中。
4000ヒット、おめでとうございます。
珍しく甘々です。
忍でした。





草子の感想



おっしゃ(笑) 妲己ちゃん×竜吉さんっすねえ・・・
初めて小説の背景に画像を使ってみました。
これだけでも私の並々ならぬやる気が垣間見えますな(笑)
ファイル作るのに、テスト前にも関わらずなんだか
もうすげーやる気満々。
私、・・・嬉しすぎて息も絶え絶えよ、忍さん。
甘々、そしてひたすら美しい二人。
「穏やかな気持ちだった」という公主様と「此処には何もなかった・・・」
らへんがすごくツボです。
指輪の所とか、身悶えせずには読めません。ええ。
皆さん、いろいろ想像しながら読みましたか? 読みましたね?(笑)

文章と間が絶妙で、私はやられまくりです。
マジですごい素敵です。酔えます。この二人大好きです。
忍さん、ありがとうございます――――――!!!!





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