注:・・・・・・・(絶句)

 

 

 

 

 

 

血は争えない

 

 

 

 

 

視界の隅をかすめた、薄青い髪の色。
耳に届くその声。

「バカなっ 生きてるなんてありえないっ」

驚愕に目を見開いてこちらを見ている。

本当は、伝えたかった。
こちらに来てはいけないよ、と。

 

手を伸ばして―――――――

   抱きしめたかったのも本当だけれど。

 

 

血の臭い。
ムッとするような。
それが、遠い記憶につながる。
甘さと苦さが入り交じった、過ちの跡。

 

 

 

流れる時間はいまよりずっとゆっくりだった。
それなのに一瞬でも目を閉じると、あきれるほどの時が流れてる。
そんな時代。

 

―――苦しい恋を‥‥しているのだな。

なぜそんなことを、と、笑って受け流した。
その目を見ればすぐにわかるよ、と返された。

彼と会う場所は、いつもきまって血の臭い。
向き合っていても交じり合うことは決してない、本質的で決定的な存在の違い。
‥‥‥想われているなどと、考えうるはずもなく。

少し疲れているのだ、と言い訳するように彼が言った。
変わりゆく時流の方向と、時として思い出したように重くのし掛かる、自分の立場に。

‥‥だから‥‥誘った?

風に流れるかすかな微笑とこちらへと伸ばされる指先。
  何かから逃げたかったのかもしれない。
  報われない恋に疲れていたのかもしれない。
半ばぼんやりとしながらも―――その手をとった。

ゆるやかな空気に、二人のヒゲが揺れる。
白いヒゲ、黒いヒゲ。
この仙人界を統べる、二つの光。そしてヒゲ。

 

吐息は甘く、永遠に続くようだったけれど。
乱れたヒゲが交じり合い、ちょうどいいゴマ塩加減だったけれど。

それはしょせん、かりそめの夢。

一時で醒めるつもりだった。
そして案の定、一発でわしは醒めた。
しょせん目つきのあぶないヒゲオヤジ。
あの愛らしい白ツルにかなうなずもない。

 

しかしたった一夜のうたかたの夢であっても
――――残るものも、ある。

二人が溺れたあの夜の、せめてものあかしにと。
そうやって‥‥おぬしは生まれた。

 

‥‥楊ゼン

 

通天教主の横に立つ、うつろな目をした幼子。
それが、おぬしとわしの初めての出会い。

かわされたのは仙人界の命運を決する、緊迫した空気をはらんだ
しかし無機質な会話。
長いテーブルを隔て、遠く絡まりあう二人の視線。
目と目で交わされる‥‥哀しい対話。

‥‥その子は、もしや‥‥

‥‥まぎれもなく‥‥そなたと私の子だ。元始天尊よ‥‥

「ぶっふ――――――!!!」

元始天尊、思わず口から食べかけの八宝菜を吹き出して前につんのめる。
その体をテーブルに手をついてかろうじて支える。
驚きのあまり、その鼻の穴から、呑み込みかけた白菜がのぞく。
その姿を愛おしむように見つめるのは、ぬぐい去れない哀しい予感に陰りつつも
何かを決意した透徹とした通天教主の目。

‥‥おそらく、私はもう駄目だ。
  近いウチにあの仙女にやられることだろう。
  だからこそ、そなたに頼みたい。
  父として、この子を、この子を守って欲しい‥‥‥‥

‥‥ってゆーか、おぬしの原形は、いったい何なんじゃっ!!??


雌雄同体‥‥雌雄同体‥‥

カ‥‥カタツムリか?!

 

通天教主は無言で目をそらす。
悲しい瞳。ふせられた濃い睫毛。
影のおちる横顔。

‥‥それは、言えない

 

 

そうして、おぬしはわしの手に渡り、崑崙で育つことになった。
通天教主は――死して星になった。
彼はその存在と愛の全てをかけ、父としてそして母として、おぬしを守り通した。

愛していたんだよ。
教主も、わしも。

他の誰でもない、かけがえのないおぬしのことを。

そしてね。
愛しているんだよ。
今も。(‥‥白ツルの次ぐらいには)


だから、一人だなんて思わないで。
その瞳を曇らせないで。
まっすぐと前をみて、迷わすに笑っていて。

こんなにも、こんなにもおぬしは思われている。
たった一夜の恋でも、おぬしはまぎれもない愛から生まれた。

わしの、愛しい息子よ‥‥

 

 

王天君のグリグリに元始天尊の長い追憶がとぎれる。
そして、ブチ切れた竜吉公主が戦いの体勢に入るのを、毅然とした声で制止する。

「手を出すでないっ これは命令だ!」

うっとつまる竜吉公主。
その秀麗な額に、疲労からというよりも、愛する人を目の前でグリグリされる憤りから
いくつもの汗が浮かぶ。
元始天尊は目を閉じて覚悟を決める。

 

わしはもう駄目じゃ‥‥
白ツル、達者でな‥‥

唯一心残りなのは、通天教主の原形が何かを
結局最後まで聞き出せなかったことじゃな‥‥
あの「それは、言えない‥‥」は、ちょっとばかしアヤシすぎた。
わしは一体何とヤってしまったんだか、
気になって気になっておちおち死んでもられんわっ

そうじゃっ!
あやつの原形をつきとめるまでは、
そして何より白ツルとの愛を実らせるまでは

わしは、死ねん!!

 

元始天尊、(気分的には)復活。
繰り出すのは奥の手の一言。

「‥‥もっと‥‥蹴って‥‥」

「ああ!?」

ギョっとする王天君。
その顔を見上げ、元始天尊がニヤリと笑う。

 

フフフ‥‥
王奕、甘いな。
わしは、筋金入りの、それこそ中華4000年仕込みの
‥‥‥マゾじゃっ!!!

だからこんなグリグリ、痛くもかゆくもない。
いや、むしろ‥‥‥ウレシイぐらいじゃ!!

 

「さあっ、王奕!! 悔しかったらもっともっとわしをグリグリするのじゃ!!」

「うっ‥‥」

「ほれほれ、どうした!? グリグリが甘いぞっ!?」

「ダ‥‥ダセッ」

あまりの気色悪さに、王天君が冷や汗をかきながら慌てて足をひっこめる。
そしてそんな二人の様子を熱い眼差しで見守る竜吉公主。
白い指を組み、うっとりとした表情で呟く。

「‥‥‥ますます素敵じゃ‥‥元始天尊‥‥ほぅ(溜め息)」

 

 

 

 

 

「くっっそ――――――――!!!
 許せんっ許せんっ許せンッ!! ジジイのヤツめ、公主の前でエエカッコ(?)ばかりしおってえ!!!!」

四不象の上で太公望が歯ぎしりする。

「よっしゃ!! わしが行って、王天君とあのジジイをまとめて打神鞭のサビにっ‥‥
 ‥‥‥だっ、離せっ、楊ゼン!!」

前に乗り出した太公望の体を後ろから抱きかかえ、楊ゼンが強い口調で言った。

「師叔、今はまだ駄目です!! 僕だって‥‥つらいんですから‥‥」

語尾が震えて消える。
何かに耐えるかのように。
驚いたように楊ゼンを振り返る太公望。

「おぬし‥‥もしや‥‥」

楊ゼンが無言で首を振る。
一瞬の間に二人の心に去来する思いは‥‥‥あまりにも遠く隔たって。

 

師叔。僕は気付いてしまったのですよ。
王天君のグリグリに恍惚とした表情の元始天尊を見た瞬間。

彼こそが、元始天尊サマこそが、この僕の本当の父親だと。
だってそうでしょう?

僕は、男にも女にもなれる通天教主の原形を知っているし
そして何よりこのお揃いのオデコのポッチ。
そして隠しても隠しきれない‥‥‥この性癖(要するにマゾ)

元始天尊さま。
あなたの眼差しから、僕はたくさんたくさん愛を受け取りました。

もう、十分です。

だから、存分に遠慮なく逝っちゃって下さい。

あなたを父として愛しています。尊敬もしています。
でも――――
この僕がヒゲジジイとヒゲオヤジが愛しあって生まれた子だなんてことが
もしもバレたら、僕は恥ずかしくってもうオモテを歩けません。
師叔だって呆れてきっと口をきいてくれなくなってしまう。

愛のためなんです。
ただ、この愛のため。

あなたが死ぬのは、血を分けた息子として身を切るようにつらいけれど‥‥
でも心配しないで。
僕は師叔と強く生きていきます。

愛してます。父上。

お願いだから‥‥‥さっさと死んで下さい‥‥

 

 

楊ゼンの涼しげな目元から涙が盛り上がり、透明な雫となってポロリと太公望の手に落ちた。
あらぬ方向に視線をさまよわせながら、小刻みに震える自分の肩を抱きしめる。
そしてとぎれそうな言葉をゆっくりと紡ぐ。

「‥‥こんなに、こんなにつらいだなんて。
 血を分けたもの‥‥背に生えた‥‥片翼をもがれることが
 ‥‥こんなにもつらいだなんてね」

「楊ゼン‥‥」

「師叔‥‥僕の一方の羽はね‥‥もう、ないんですよ」

通天教主はその命を落としてしまったから。この僕を守ろうとして。

「そして‥‥残された羽も‥‥もうすぐ‥‥」

楊ゼンはバフッと太公望に抱きしめられて、言葉を失った。
胸がドキドキして、ますます泣けてきた。
しゃくりあげながら太公望の胸にすがりつく。

「わかった‥‥わかったから‥‥もう言うなっ!!
 おぬしの気持ちはもうわかったからっ‥‥‥!
 聞いていると、わしまでつらくなるっ」

「え‥‥? わかって下さったんですか?‥‥‥僕の気持ち」

「そりゃあもうっ! 痛いほど!」

そう力強く言ってから、慰めるように楊ゼンの背中をポンポンとたたく。

「もう泣くな。楊ゼン。わしが全面的に協力するから」

「きょ‥‥協力‥‥ですか? そりゃああなたが協力してくれなきゃ、実らないモノですけど‥‥
 でも、協力という表現はちょっと違うんじゃ‥‥」

「おぬしは大船に乗った気持ちでいるがよい!! わしにかかればどんな困難だって
 嵐の前のチリにすぎんわっ!!!」

「師叔‥‥」

やけにノリノリの太公望に、心のどこかで不安を感じながらも、楊ゼンは素直に恋の成就の喜びに
ひたった。
哀しみの涙は感動の涙に変わり、とめどめなく楊ゼンの頬をつう。

「‥‥‥それにしても」

「?‥‥何ですか、師叔?」

「いや、なんでもない‥‥こっちの話だ‥‥」

 

それにしても‥‥ホント―――に人の好みはわけわからん。
これほどまでに楊ゼンがあのジジイに恋しておったとは。
あの熱い視線、そしてあの涙
‥‥かなりマジとみた。
昔っからちょっと変わったトコロのある男だと思っておったが
まさかこれほどまでとは。

うはあっ‥‥‥!! 考えてみれば、男同士ではないかっ!!!
しかもそれ以前に、相手は枯れきったジジイだぞ?

いや‥‥逆か。
ジジイ以前に男同士‥‥と言うべきか
うーむ。わからん。わからんことだらけだ。
卵が先か、ニワトリが先か‥‥‥いや、これは問題が違うか‥‥‥

まあ、それはいい。
わしは広い心で二人を心から祝福しようではないか。
何よりもあの二人がメデタクくっつけば、公主だってあのジジイをあきらめて
わしに振り向いてくれるはず。

それだ、それ!!
二つの恋が同時に実って、みんな幸せ大団円ではないかあっ!!!

 

太公望は空を見上げ、すがすがしく言った。

「楊ゼン! わしらの未来は、なんだか明るいっ!!」

楊ゼンもにこやかに返事をする。

「はいっ、師叔!」


それどころじゃない、かなりピンチの黄一家が、しらーっと冷めきった目で
そんな爽やかな二人を眺めていた。

 

 

 

 

 

繰り返せば繰り返すほど
重ねれば重ねるほど

恋の呪文は重くなってく。

甘くて苦しくて、哀しくて。

いつかこの気持ちさえ見えなくなる。

 

あなたが好きです

あなたが‥‥

あなたが‥‥

 

 

 

 


 

‥‥カタツムリって、雌雄同体でしたっけか‥‥
‥‥白ツル、以外と年くってんだなあ‥‥‥‥

ひいっ、言い訳するべきトコロはこんなトコロじゃないわっ
あの―――もう続かないとか言ってて、今日、学校の授業中あまりにヒマだったんで
思わずすごい勢いで書いちゃいました‥‥
ジャンプの展開うろ憶えなんで、展開が前後してると思います(でもそれ以前の問題)

ああ‥‥‥‥‥さようなら〜〜〜〜
みなさん‥‥‥

もうどうでもいいっす(涙)
しょせん私はアホ

 

 

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