注:クドイです。
二重苦でも負けない
目を閉じてほんの一瞬だけ。
戦いのさなかに夢を見た。
きれいなきれいな、白い羽の舞う夢。
それはきっととても愚かなこと。
許されないこと。
でも、夢見ずには人は生きられないから。老成した心の裏側に、迷い懊悩する未熟な自身がいる。
何度諦めても、どんなに思い知っても、夢見ずには生きられない。
元始天尊が目を開く。
目の前には、手負いの聞仲。・・・若いな、おぬしは。
むしろ、暖かいとすら言えるような眼差しを彼に向ける。
それは、哀れみとも歪んだ共感ともつかず。聞仲の語る言葉は、ただひたすら仙人界のために生きようと誓った若かりしころの自分の姿に
ぴったりと重なった。
若かった自分。
でも、今は違う。にやりと笑って宙に浮かび、両の手を広げ力を放出する。
白いヒゲが舞い荘厳な空気をかもしだす。
しゅびっと手を交差させ、キメのポーズもはずさない。凄まじい重力に、聞仲のからだが床にめり込む。骨がぎしぎしと音を立てる。
軽やかに弧を描いていた彼のカールがへたれる様子がなんとも小気味よい。・・・わしは、負けん。
甘っちょろい理想なんぞのために戦うおぬしには負けん。わしは戦う。
・・・愛のために。
そう、愛。
ただ、愛。
ひたすら、愛。愛、愛、愛。
愛のためだけに!!
聞仲よ!
愛を失ったおぬしに、わしが倒せるか!?
「むろけんこんもう〜〜〜〜」
水の結界を張る涼やかな竜吉公主の声が耳に届く。
それに応える声が、声が、元始天尊の時を止めた。
「公主!!」
それは、白ツルの声。
どんなに遠く離れていても、無数の音にまぎれても、
それだけはまっすぐと自分に届く、愛しい声。その声が呼ばわるのは・・・・自分ではない。
時が凍る。
ムンムンだったヤル気が萎え、とたんに古傷の椎間板ヘルニアが痛みだす。
こんなに・・・!
こんなにわしはがんばっているのに・・・!!
あるんだかないんだかわかない程の、元始天尊の細い両目から涙がすっと流れる。
でも誰も気付いてはくれない(それどころじゃないから)
わしはおぬしを守ろうと戦っているのに・・・・!白ツル・・・
それでもおぬしは・・・こんな時でさえ・・・わしの名を呼んではくれぬのか・・・?
狂いだしたのは彼(?)と出会ってから。
美しい白い羽を持つ、天使のようなその姿。
もの思うようなつぶらな丸いその瞳。
かわいらしい細い足。動き出した心は、もう止められない。
それまで生きていた長い人生が、振り返ると何の意味もなかったと思えるぐらい。たとえるなら、月光のもとの白い花。
陽光に映える赤い花。
想う気持ちは大輪の花となって、朽ちることなく咲き匂う。白ツルとの出会いは、元始天尊の心を狂わせた。
人は、夢見ずには、そして狂わずには生きられない。白ツル。
おぬしと出会ってから、わしは「生きる」ことの意味を知ったんだよそのツッコミは甘い蜜。
そのクチバシは心を酔わす、心地よい針。おぬしのツッコミのないボケは、虚しく宙をうつろい果てるだけ・・・
公主、公主、公主、こうしゅ――――――????
公主ですと―――――!!!???白ツルの一言が、元始天尊の頭の中で永遠とリフレインする。
胸がはり裂ける。
心がつぶれる。これが叶わぬ、恋の痛み?
獣愛でも、おまけに男同士でも。
わしはおぬしを死ぬほど愛しているのに―――――
「重力千倍!!!!」
やけくそで放った重力千倍に、動揺しまくる心の迷いから隙が生じる。
その隙が、致命的な運命の分かれ目になる。
咆哮する聞仲。
はじき飛ばされる元始天尊の体。「元始天尊!!」
竜吉公主が悲鳴を上げる。元始天尊の意識が一瞬だけ遠のく。
・・・全てが・・・全てが・・・壊れていく・・・白ツルと出会った思い出の廊下が。
二人で語り合った光溢れる露台が。おぬしとの記憶がつまった、この崑崙が・・・
血の滲む赤い視界のうちで、元始天尊はただひたすら白ツルの姿を求めた。
白ツル、白ツル、白ツル!!!
何を失っても、誰が死んでも、どんな暗闇が世界を覆っても。おぬしだけは・・・無事でいて。
「白ツルは・・・無事・・・か?」
震える両手に元始天尊を抱きとめた竜吉公主が唇をかんでうつむく。
その美しい両目から涙がこぼれ、ポツリと元始天尊の額に落ちる。「どうして・・・どうしておぬしは・・・いつもいつも白ツルのことばかり・・・・
私は、・・・私は・・・・」震える細い彼女の声。
最後までも言いきれず、その言葉は抑えた嗚咽に変わる。彼女の言葉は届かない。
元始天尊は一瞬時が止まったような静寂とした心のうちでただ愛する者だけを探し求めているのだから。元始天尊の視界の端に、白い羽がうつった。
白ツル。
わしの天使。
無事で・・・・よかった。白ツルの微笑み(元始天尊にはそう見えた)を見たとき、元始天尊はいつ果てても悔いはないと感じた。
サラサラと流れ落ちる公主の黒い髪が元始天尊を守るかのように包み込む。
その黒髪ほどに暗い、深い深い闇がせまってる。
愛にまどう者たちを呑み込もうと、その口を開け・・・・・・
「しばし崑崙山にははいれぬか・・・状況が変わり次第突入しよう!」
そう呟いた太公望の横顔。
楊ゼンはわななく手で自分の服の胸元をおさえる。
さっきから急に・・・心臓が正常に脈を打ってくれない。どうしたんだろう。
どうしたんだろう。
一体どうしたんだろう。むずかる子供のように幼い問いを繰り返す。
トクン、トクン・・・
乱れる呼吸。
眉をひそめて中空を見据える。
手のひらにじっとりと汗をかいていた。
イヤな汗。まるで、この体が自分のものじゃないような気がして。
「あの・・・師叔・・・」
耐えきれず声を出す。
この人ならば、この気持ちの答えを知っているような気がして。太公望は振り返らない。
小刻みに震えるその肩。
おもむろに手をあげると、太公望はいきなり自分の髪をむんずと掴み力を込めてひっぱった。「髪がっ、髪がっ、髪がっ、一体何の役に立つというのだ!! こんなにフサフサで・・・
つくづくイヤになるっ!!!」
自分はこんなにも無力なのに。
髪があっても・・・
いや、むしろないほうが・・・・あの人は・・・・「へ?・・・防寒とか・・・」
おマヌケな楊ゼンの答えは当然ムシされる。
ブチリと根元から抜けた太公望の髪が、ふわりと風に流れる。
楊ゼンが目を細めてそれを追う。「御自分を傷つけるぐらいなら・・・僕を・・・僕を殴って下さい」
「・・・・」
「もう一度だけでいいんです・・・。僕を殴って下さい!!」自分でもびっくりした。
何やら緊迫した自分の声と、無意識に、そしてすべるように出た言葉に。「・・・は?」
太公望が振り返る。
ドキドキした。
ゾクゾクした。
こめかみから汗が流れた。・・・・この気持ちの答えが・・・少し見えた気がした。
自嘲ぎみに微笑みを浮かべ、泣きそうに目をひそめる。
知らなかった。
知らなかった。
何も欠けるものもない、完璧な自分の内に、こんな気持ちが隠れていたなんて。だけど・・・
もう逃げれない。
これほどの思いなら。
意を決して楊ゼンが太公望の腕をつかむ。
「ねえ・・・太公望師叔・・・」
誘うように呟いて。
そしてもう一方の手で前髪をかき上げて、自分の額を丸出しにする。
元始天尊とお揃いのそのオデコを。
今度は一発KO級の強烈な右ストレート。
太公望の拳が頬にめり込み、楊ゼンがふっとぶ。
その顔には、これ以上ないほどの、至福の表情。
「うはっ!! またやってしもうたっ!!!!」
太公望の声が薄れゆく意識の表面で聞こえた。遠くなってく。全て。
この瞬間の幸福以外、何も感じない。
ホモでもマゾでも。
あなたが他の誰かを見ているのだとしても。
もう何だっていいです。
僕は何にだってなります。
好きです。
あなたが。太公望師叔。あなたに殴られた瞬間・・・・
僕は恋に落ちました。生涯ただ一つの恋。
だから。
もっともっと・・・その拳で・・・僕を殴って下さい・・・・・
幸福な微笑を浮かべ、鼻血を流しながら、楊ゼンは気を失った。
また一人恋に迷う。
出口なんてないのに。
幸せになんてなれないのに。でもこの苦しみこそが幸福なのだとしたら?
・・・・愛は交わらない。
いつまでもいつまでも。
それは無限の輪を描く。
・・・・なんだか・・・・もう・・・・言い訳する言葉すら(笑)
寒いってゆーか、くどいってゆーか。
でも一発ネタを無理矢理続けたのでこれはしょうがないですね。
「二重苦」というのは、元始天尊の「ホモ+ケモノと人間」
そして楊ゼンの「ホモ+マゾ」です。
なんか・・・無理矢理?
しかも説明してるところが恥ずかしい・・・・
うぎゃーーーー本当に駄目っす。ごめんなさい。もう止めます(汗)
そういえば・・・私ハジメテ楊太書いたよ・・・うむう。