注意:寒いです。

 

 

 

 

 

愛は交わらない

 

 

 

 

 

ぎゅっと握りしめた指先が、細かく震えた。
唇を噛んで目をそらす。

宝貝の発する波動が辺りを満たしていく。
自身の脆弱な心を写したように、壁も天井もバラバラと崩壊していく。

‥‥私のすべきこと。

想う人の側へと駆け出しそうな自分を押さえ付け竜吉公主は水の壁をはり
くっと前を見た。

‥‥あなたが私にたくしたこと。

今はただ、力無き者たちを守ってくれと。


流せぬ涙を呑み込んで、ただ目はそらさないように竜吉公主は前だけを見ていた。
立ち上る気の力にゆらゆらと揺れる、苦しいほどに白く美しい彼の人のヒゲ。
まるで汚れなき尊い雪のような。

髪はないけれど。
頭はやけに長いけれど。
ハゲのわりには、いらんほど豊かなそのヒゲが何だかとても哀しいけれど。

でもね。
遠い過去とそして朧げに霞む遥かな未来さえ貫き通すあなたの眼差しの、心が震えるほどのその叡知は
いつだって私の心をとらえて離さない。
幼い日の私は恋に溺れ、少しでもあなたに近づきたくってその口ぶりをまねた。
こんなにも浅ましい女という生き物。
あなたとお揃いの赤いポッチをオデコに付けた楊ゼンに、本気で殺意を覚えたほど。
それほどまでに、私は。あなたを想っているのだよ。

浅ましくて生々しい、女という私。
それでも私は女をやめない。
だってこの理不尽で愚かなこの思いこそ、生きている、ということなのでしょう?
心臓の鼓動が熱いよ。

‥‥元始天尊どの‥‥


空間が歪む。
元始天尊の白いおヒゲが宙を舞う。
竜吉公主は睨み殺しそうな視線を、彼と対峙する聞仲に向けた。

その人を傷つけたら許さない。
     私はお前を許さない。

           髪の一筋ほどの傷であっても、もしその人を傷つけたら。
            私はお前の自慢のその髪型を、愛しい元始天尊殿とお揃いにしてあげる‥‥

                         フフフ‥‥

 

 

 

 

 

額からいくつもの汗がつたった。
四不象の働きで、もうその体は王天君の宝貝の足かせから解放されているというのに。
汗は流れて、細い首筋を伝っていく。

「‥‥太公望師叔?」

くいいるように前空を見つめる太公望の険しい横顔に、楊ゼンが声をかける。
太公望が振り返り楊ゼンを見た。
大きな蒼穹の目が見開かれる。
こぼれるような瞳の、はかりしれないその色の深さ。

「楊ゼン‥‥」

震える声。
助けを求めるような。決して得られぬ許しを乞うような。

ついぞ見たこともない太公望の今にも壊れそうな様子に、楊ゼンは息をのむ。

「師叔」

名を呼んで腕を伸ばそうとしたその次の瞬間
太公望の右アッパーが楊ゼンのアゴに決まった。

「‥‥だぐはっ!!!(涙)」

「あ‥‥スマン。つい」

我にかえった太公望が慌てて四不象の背から転がり落ちそうになった楊ゼンへ手を伸ばし
その体を支える。

「なっ、なっ、ななな何ですか!! イキナリ!!」

「おぬしの額のその丸いヤツ。それだよ、それ。
 それを見てると、何かこう、無性に胸がムッカ――――!!、と‥‥
 気が付いたら手が出てた。本当にすまん」

「はあっ?!」

太公望は目を伏せて、やるせない表情で笑った。

「決して叶わぬ‥‥恋の‥‥名残だ。今でもこの胸でくすぶっておる‥‥」

人をぶん殴っておいて、自分の世界に浸りきっているやけに色っぽい(?)太公望の姿を、
流れる鼻血もそのままに、あぜんとして声も出ないまま楊ゼンははただ眺めるしかなかった。

 

 

自分の恋に気付いたとき、それと同時にその恋が実らぬものであることを知った―――――

『好きだよ。公主。わしはおぬしが好きだ』

わしがそう言うといつも、

『私もおぬしが好きじゃよ』

きれいなきれいな、やさしい笑顔でそう彼女は答える。いつもいつも。


でも、その『好き』は、わしの欲しい『好き』じゃ、ない。
母親のような、姉のような『好き』ならば、欲しくなんてない。

彼女がどこを見ているかだなんて、知りすぎるほど知ってる。

‥‥自分の師。元始天尊。
永遠に越えることの出来ない遥かな高みにいる、食えないジジイ。


わしはね、公主。
おぬしにほんの少しでも振り返ってもらえるように、おぬしの想い人のしゃべり方をまね、仕草をまねた。

でも、愛の力だけじゃ、頭は伸びない。
あの驚きの長い額は、にょきにょきと生えてはきてくれない。
頭を剃って、なんちゃってハゲになることはできても。

だからおぬしは、わしのことを見てはくれぬのかのう‥‥‥

 

 

「無事で‥‥いてくれ‥‥」

四不象の背をぎゅっと掴み、うめくような声で太公望が呟く。
楊ゼン、もはやつっこむ気力なし。

 

公主‥‥
おぬしが身を投げ出してでも、あのヒゲもじゃを守ってしまうであろうことがわかっているから。

だからこんなにも苦しい。
息が出来なくなる。


どうか無事でいて。

他の誰かを想っている目でもいいから、ただ無事でいてわしに笑いかけて。

公主。

 

 

 

かなわぬ想いは出口を探して暗闇を迷うばかり。
だからこんなにもこの胸が熱い。

運命の糸はもつれあい、どんな未来を描くのだろう――――――

 

 

 

 


 

あのですね・・・あの三人(元始、太公望、公主)が、どーも同じしゃべり方をするもんだから・・・・
・・・三角関係にしてみちゃったり何かしちゃったりして・・・・・

冗談です。ええ。冗談。・・・・2%ぐらい本気だけど・・・・

アホですいません。ごめんなさい。

 

 

 

 

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