ジョスリン糖尿病マニュアル「第12版」
廣川書店発行 田中照二監訳より

「ジョスリン糖尿病マニュアル」に、緊急の問題についての対処法が非常にわかりやすく「Q&A」として書かれています。
Joslin Diabetes Manual
”ジョスリン糖尿病マニュアル”「第12版」
Q&A
Q(質問) A(回答)
序文 思いがけない出来事は、誰にでも起こります。
DMを持っていても、いなくても、面倒な緊急事態や問題があります。
しかし、DMを持っている人々や、その身近な人々には心配の種は多く、緊急事態はより悪いように思われます。
そういったモノのいくつかは重大なモノですが、親戚や友達などのDMを経験していない人には、時には不必要にうろたえます。

迷ったときにはあなたの主治医に電話しなさい。

しかし、もし医療関係者に連絡が取れなくても、問題を解決する事が出きるかも知れない手段があなたにはあります。
Q1
急病の時にどのように治療すべきか?
「A1」
誰でも同じように、DMを持った人も、時にはDMとは必ずしも関係のない病気にかかることがあります。
まったくありふれたもので、ちっとも重篤ではないもの「普通は感冒や胃痛」ですが、しかしこれらはDMの治療を困難にします。
IDDMの人ではそのDMのコントロールが困難かも知れません。
実際に、DMを持った「だれもが」、良く治療されていないならば、危険になるようなDMの問題を抱えることがあります。
このような場合には、多くの人々はインスリンが「より一層」必要なのです。
たとえ食欲が無くても必要量は少なくありません。
病気の時には、インスリンはしばしば効力が少ないのです。
ちょうどインフレの時は、お金の価値を弱めるのと同じ事です。
血液や尿の検査は、より頻繁に行われるべきです。
そして、しばしば過量のインスリンが必要とされます。
この様なときには、尿については糖と同時にケトン体の検査も行わねばなりません。
急性の病気の時に、もしケトンがある程度みられるならば、医師に連絡をとって下さい。
Q2
DMの人が意識不明になったら、どのように治療するか?
「A2」
これは意識喪失が突然(もしDMに関係しているならば、低血糖によるものがもっとも考えられますが)だったか、徐々に進行してきたか(多分、他の医学的問題によっての酸血症による)によります。
年配の方の場合は「脳卒中」やその他の脳血管障害(脳への血液循環の変化による)かも知れません。

しかし、インスリンで治療している人に突然起こって来たのであれば、原因は低血糖によるものと思われます。

医師や看護婦又は救急車を待っている間に、それによって低血糖以外の他の問題が影響を受けないで、グルカゴンを注射するのが安全です。

決して飲み込む事が十分にできない人に強制的に飲み物や食物を与えようとしてはいけません。そうすると気管に入ってしまい、より悪い結果になります。

にもかかわらず、ゆっくりでも、急速にでも、特にグルカゴンにも反応しないで意識を失ってくる人のためには、直ちに救急車を手配し、緊急に医療関係者を探さねばなりません。
Q3
痙攣発作には、あなたに何ができるか?
「A3」
多くの発作は、多くは自然と止まります。
もし、痙攣が低血糖によるものなら、急速(一刻も早く)にブドウ糖の静脈内(病院)をしたり、インスリン注射の時と同じようにグルカゴンを皮下に注射(病院又は在宅)すると一般にはそれに反応し治まります。

飲むことが可能ならば、オレンジジュースや「含糖」飲料を与えるべきです。

本当のてんかんの発作の時には、怪我をしないように患者さんの周囲を片付けるべきです。この発作はしばしば大変短時間で通り過ぎます。

いったん発作がおさまったら、意識が回復するまで、横向きに寝かせます。
そうすることによって、吐物が肺にはいるのを防ぎます。

たとえ発作がおさまって、意識が正常に戻っても、医師に相談して原因を確かめ、将来の発作の予防について話し合っておくことが重要です。
Q4
私は「(インフルエンザ)ウィルス」の感染にかかっています。
そして何も鎮まってきません。
何も食べていないので、インスリンの注射をはぶくべきでしょうか?
「A4」
「いいえ!絶対に、はぶいてはいけません!!」
インスリンは注射すべきです。
そして血液(血糖値)と尿(ケトン体)について、注意深く(糖とケトンの)検査をすべきです。

一般に急に起こる吐き気や嘔吐は長く続きません。
口からたくさん食べていないのならば、吐き気の多くはすぐに良くなります。

吐き気がなくなったら、少量の肉汁(コンソメスープ)、みそ汁(スープ)やジンジャーエール(スポーツ飲料)等を摂り始めても安全です。
飲んだものが、良く(胃腸の)下に下がるまで、すぐにテーブルスプーン1杯以上を摂ってはいけません。

口やのどの渇きには、氷片をしゃぶって、少しずつ溶かして飲み込むのが良いでしょう。

もし、血中や尿中のブドウ糖が大変高く、そして、特に尿中にケトンが出ているならば、医師に連絡を取りましょう。

また、2〜3時間以上も食物や飲料が摂れないならば、主治医に連絡を取るべきです。

一度にたくさん飲もうとするのは、良くありがちな間違いです。

コップ一杯のオレンジジュースは、この様なときには大変吐き気を催すことがあります。
室温におかれたジンジャーエール(スポーツ飲料)等を一口ずつ摂るのが、より摂りやすいものです。
Q5
尿にケトンが出ていたら?
「A5」
尿の中に、ケトンは時に少量はみられます。例えば、DMでない子供でも、暑い日に十分な炭水化物を摂らないで、遊びまくっている時には、脂肪が分解されるのでケトンがでます。

またケトンは、病気や発熱の時に出ます。
この時には、血糖値が高く、尿糖が多いことを伴うならば、大変重大な事を意味しているかも知れません。
この場合には、酸血症(ケトアシドーシス)の前段階かも知れませんので、インスリンの追加で治療すべきです。

もしあなたの主治医や看護婦が、尿にケトンが出ている時に、どのように治療するかについて「注意深い指示」をしていないならば、同時に血糖値が上昇しているときには、主治医と連絡が取れるまでの間、病気の日のガイドライン(シックディ・ルール)にのっとって治療を行うべきです。
しかし、連絡が取れ次第、インスリン量についてよく話し合うことが必要です。

ケトンが出ることが、いつも問題を意味しているのではないということを覚えておくことは重要です。
ケトンは時に体重を減らす為に食事量を減らしている人では、脂肪の代謝の結果として尿に出ることがあります。
この時には、血糖値は一般に正常値です。
ケトンは、また、低血糖反応の後に反動の結果としてもみられます。
その反応の理由は、反動に追い打ちをかけるように、さらにインスリンをただ追加するよりはむしろ、よく調べる必要があるということです。
Q6
私の尿には、糖がたくさん出ているのだろうか?
「A6」
尿の中に、たくさんの糖がみられることは、DMでは珍しいことではありません。

それは一般には、その時はDM患者さんの調節が悪いことを意味しています。
すなわち、多分食物の量が多すぎるか、運動が十分でないか、あるいは感染が起こっているかです。

いずれにしても、少なくともその時にはインスリンの量かインスリンの作用が十分でないのです。

尿中のケトンが明らかでない(すなわち、痕跡又は陰性(−))ならば、少量のレギュラーインスリン(R)の追加が役立ちます。

もし、こういうことがしばしば起こるならば、あなたの治療方針を変えるよう主治医と相談すべきでしょう。

インスリンを使用していない人が尿に糖がたくさん出ているのに気づいたときには、食事に特別に注意して、それでも結果が良くなければ、主治医に連絡を取るべきです。
Q7
突然に眼がかすんできたならば?
「A7」
眼に何も傷を受けたり、障害がないのに、一時的に眼がかすむ(老視)もっとも普通の理由は、血糖値の急激な変化です。

しばしば、その値(血糖値)は低値です。

自己血糖測定は、あなたの血糖値が高い場合と低い場合とを区別するのに役立ちます。
しかも家庭ですぐに判定できます。

もし低いのなら、すぐに何か甘いモノを飲みなさい。(ダイエットドリンクではなく)。

以前には治療されていないで、いまインスリンで精力的に治療されている患者さんは、眼がかすむ時期があるかも知れません。
これは普通、一時的で間歇的です。
その人達は、いらいらしたりして、時には数週間も続くかも知れません。

眼の出血(眼底出血)を持っていることが分かっている人に見られる、明らかな視力の喪失は別の問題です。
この場合は、直ちに行える最善の治療は、できるだけ安静を保つことで、そしてできるだけ早く、あなたの眼科医に連絡することです。
Q8
今朝起きたら、白眼にくさび状の赤い斑点に気付いたのですが、これは何でしょうか?
「A8」
これは普通、DMとは関係ありません。
誰にでも起こり得るものです。
それのほとんどは、結膜下の出血で、目をこすったり、またその他の原因での刺激によります。
もし、一層ひどくならないのなら、数日で消えます。
Q9
DM患者さんの場合は、切り傷や打ち傷は、どのように治療すべきでしょうか?
「A9」
DMを持たない人に治療するのと同じです!
出血している場合には、圧迫して止血しなさい。
傷は石鹸や水で注意深く洗い、緩和な消毒薬を使いなさい。

もし出血がひどく、止めにくいならば、治療を受ける必要があります。

DMが良くコントロールされていて、循環も良い患者さんは、他の人に比べて危険が大きい訳ではありません。
Q10
痛みはないが、足の指の爪が黒くなっています。
「A10」
黒くなっている部分が爪だけで、爪の周りが赤くなっていたり、感染の様子が無いならば、普通はつま先を打ったために起こった爪の下の出血です。
2〜3日から2〜3ヶ月程度かかるけれども、この様なものは一般にはうすくなっていって、消えます。

足が痛く、爪の近くや、その周りが炎症を起こし、変色しているならば、医師にかかりなさい。
Q11
DM患者さんが、毒うるし等にさらされたら?
「A11」
何にさらされるか、あなたの住んでいる場所によります。
どの場合にも、治療は同じで、誰にでも同じ治療です。
できるだけ速やかに、大量の石鹸と水で触れた場所を洗いなさい。
発疹がひどい場合には、医師にみせなさい。
Q12
突発的な低血糖(インスリン反応)はどのように、治療されるべきでしょうか?
「A12」
通常(車などの運転時などを除いて)、低血糖反応は重篤な問題ではありません。
そして、しばしば危険というよりは、怖がらせているし、いらいらさせられるものです。
しかし、多すぎるインスリン、過度な運動や不十分な食事摂取は、急速に血糖を下げることがあります。

その場合には、症状は、錯乱状態・見当識障害や意識喪失さえもみるほど重篤になるかも知れません。
直ちに何らかの処置がなされるべきです。

インスリン反応はほとんど予防可能です。
そして、低血糖と認められた場合にはすぐに治療されるべきです。

もし、物を飲み込むことができるならば、手近に手に入る甘い飲み物を与えなさい。
液体は飲み込みやすいし、食べ物より好ましい。
液体は、また吸収も速やかです。
オレンジジュース、コカコーラやジンジャーエール等適当な飲み物を探したりして無駄な時間を使うよりも、どんな飲み物でも甘い物なら、すぐに飲ませなさい。

カロリーの無いダイエットドリンクを用いてはいけません。

患者さんが飲み込めなかったり、反応がなかったりした場合には、1ccのグルカゴンの小瓶を注射し、しばらく後に、もう一回1ccの注射を繰り返しなさい。
それでもまだ反応しないのなら、ブドウ糖の静注をするために、もっとも近い病院の救急室に連れて行きなさい。

低血糖(インスリン反応)は、短くて、軽いものならば、害にはなりませんが、治療しないで、長引かせることはするべきではありません。
Q13
旅行中に、遠い町に着いてから、インスリン用の注射器や針を家に忘れたことに気がつきました。
どうしたらよいでしょう?
「A13」
これは珍しいことではありません。

以前にガラスの注射器を使っていた頃には、落として壊したり、同じ様な問題が起こりました。

まず、第一にいつも「糖尿病カード」を携帯して下さい。

そして、もっとも近い病院の救急室を探し、事情を話して下さい。

どこかの薬局は、あなたに便宜をはかってくれるかも知れませんが、他の目的のために注射器を探している人々にねらわれやすいので、便宜をはかりたがりません。

多くの救急室は、インスリンとともに、あなたに注射器を提供してくれるでしょう。

より良い解決方法は、あなたの主治医やクリニックの電話番号が書かれた、「糖尿病カード」を持っていることです。

そして電話代を払いなさい。

そうすれば、問題は解決します!

多くの地域には、助けてくれるアメリカ糖尿病協会があります。
この命の綱を忘れてはいけません!
Q14
誤ってインスリンを多く打ち過ぎました。どうしたらよいでしょう?
「A14」
もし、あなたが誤ってほんの少しだけ多くのインスリンを打ったのなら、十分に食事を摂って、低血糖を思わせる症状に注意する限り、重篤な問題は起こりません。

時々、インスリンの注射器の目盛りを誤って読んで、使用量の二倍以上のインスリンを使ったり、朝に使う大量を、夜に打ってしまう事があるものです。

あわてないで下さい!

ただ単に、その日により多くの炭水化物(ブドウ糖等)を摂り、より十分量の食事をして下さい。
そして更に食事と食事の間に、オレンジジュースや普通のジンジャーエール、そしてクラッカーを摂って下さい。

このような緊急な場合には、炭水化物、蛋白質、そしていくらかの脂肪を含んでいるアイスクリームを摂るのが適切です。

血糖自己測定が血糖値の動きを一定範囲に保ち、下がりすぎるのを警告するのに役立ちます。

普段血糖自己測定をしていない人であっても、このような緊急時のためには、どうしたらよいかを知るべきです。

このようなときには、少なすぎるよりも少しぐらい、むしろ多すぎるぐらい食べたり、飲んだりする方がより良いのです。

食物が多すぎたとしても、血糖の上昇や尿糖量の増加は一時的です。
もし必要なら、インスリンの追加はのちほどいつでもできます。

頻繁に少量ずつ、口から炭水化物を摂ることは、一度に大量の食事をするよりも良い方法です。

しばしば、目覚まし時計をかけて、夜中に起きることも役に立ちます。
Q15
もし、インスリン注射の最中誤って針が注射器からはずれてしまったり、何らかの理由で、どのくらいの量のインスリンを打ったのかわからなくなった場合には、どうしたらよいでしょうか?
「A15」
注射器にどのくらい残っているかをみて、どのくらい打ったかを推し測ってみて下さい。

どのくらいの量を失ってしまったかが確かな場合には、不足分を追加する事で解決できます。

どのくらい不足したかを知る方法がない場合(不確かな場合)には、随時血糖自己測定の検査をして、必要に応じてR(レギュラー:速効型)及び超速効型のインスリンを追加するのが最も安全です。
Q16
インスリンを打ったかどうか覚えていません。
「A16」
もし本当にインスリンを打ったのかどうか疑わしいのなら、1日中、数時間毎に血糖自己測定して血糖値を検査して下さい。

もし、血糖値が上昇し始めるならば、適量の、作用の早いR(レギュラー)又は超速効型のインスリンを使う必要があるかも知れません。

血糖値が上昇し、追加インスリンが必要と思われた場合で、自分で判断できない時は、主治医に助けをかりなさい。
Q17
私の子供が通っている学校で、多くの子供たちが感冒やインフルエンザにかかっています。
私の子供が予防するにはどうしたらよいでしょうか?
「A17」
この時点では、あなたのお子さんは、もうすでに多くはかかっていると思われるので、あなたができることは、ほんの少ししかありません。

このような感染にさらされるのを予防することは大変困難です。

十分な休養と栄養をとって、療養規則を守り、DMを注意深くコントロールしているならば、このような感染の多くは重大なことではないことは事実です。

多くの子供たちは、何の困難もなしに、このような出来事を乗り切っています。
Q18
激しい運動の間、低血糖をどのように防いだらよいのでしょうか?
わたしは、テニスをしますし、時々長い距離のジョギングをしていますので?
「A18」
最初に心がけるべき事は、運動は規則正しく、毎日同じ時間に行うことです。

激しい運動や、長い時間運動するような場合、運動の前に間食を摂ったり、適当にインスリン量を調節して、食事も調節することです。

DMを持っている数人の良く知られたプロのテニス選手は、試合中コートチェンジの間にオレンジジュース、ジンジャーエールやゲータレード等をすすっています。
Q19
もし、指を切ったり、釘を踏んだ場合、治るでしょうか?
「A19」
誰でもそうであるように、治ります。

若い人は、十分な血液の供給があるので、大変良く治ります。

DMを持った年輩の人の場合には、足の血液循環が落ちているので、若い人より一層注意深い管理が必要です。

いずれにしても、治療は「Q&A その9」と同じです。

しかし、DMが完全にコントロールされていないということがなければ、多くのDMの患者さんでも、大変良く治ります。

刺した傷(例えば釘を踏んだ事による)の場合には、どんな細菌が釘の表面に残っていたか判らないので、問題は少し重大です。

この場合には、破傷風の予防注射の追加免疫治療が必要かも知れませんので、主治医に確かめて下さい。
Q20
要約として・・・
「A20」
たとえ何が起こっても、決してあわててはいけません!

このマニュアル(「ジョスリン糖尿病マニュアル」等)の適当な箇所をごらんなさい。

時により、何か一つやってみて下さい。

そして、もし疑問があるのなら、躊躇せず、あなたの主治医、指導する看護婦(師)、クリニック(病院)又は救急室(救急車)に電話して下さい。

以上、ジョスリン糖尿病マニュアルに書かれている「Q&A」
(一部改変しています。)