#10 「ホールイン・ワン」


 これは、ゴルフの話ではありません。(そりゃそうだ。)

 春になり、雪解けが始まってくると、真っ白だった山が少しずつ茶色に変わってくる。地表が顔を出すからです。1999年の、そんな春の残雪期の話です。

 場所は羊蹄山。4月。仲間とはじめての羊蹄山の滑走ということで、心をワクワクさせながらハイクアップしていました。

 6合目付近で少しルートを間違え、40度近い急斜面の地形に出てしまいました。このときは残雪時の締まったザラメ雪にもかかわらず、私達はアイゼンを着用していませんでした。自分が先頭を進んでいたのですが、スノーボードブーツでは蹴りこんでもあまりしっかりとしたステップを刻むことが出来ません。中々進めず困っていたところでメンバーの一人が悲鳴と共に滑落してしまいました。

「あっ!」と思ったが自分にはどうすることも出来ません。メンバーは、そのままズルズルとゆっくりスローモーションの様に滑り落ちていくと、大きなダケカンバのそばで突如忽然と姿を消してしまいました。「?」

 山にシーズンをかけて降り積もった雪が、初めに解けていくのは、実は「木のまわり」からなんですよね。その時滑落したメンバーが、姿を消したダケカンバの根元付近には、木を中心に直径3メートル、深さ7、80センチの大きな穴が開いていたのです。

 メンバーがそのカップ(?)に真っ直ぐ吸い込まれるように滑り落ちていく様子は、なんともナイスショット!「ホールイン・ワン」という感じで妙にツボにはまってしまい、みんなで大笑いしてしまいました。

 でも、ほんとは笑い事ではないんですよね。こういう滑落事故で大怪我をする人は少なくありません。実際当のメンバーは、しばらく恐怖で呆然としていました。また、スキーを担いでいた女子メンバーも同じところで滑落し、恐怖のためリタイヤしてしまいました。

 しかし、話はこれだけで終わりません。この後、まさか自分も「ホールイン・ワン」してしまうことになろうとは・・・。

 無事ピークまでハイクアップ終了。ついに念願の大滑走!となりました。8合目付近までは極上の締まり雪で実に滑りやすく、さらに、ほどよい急斜面のビッグなオープンバーンを思う存分攻めることができたので、自分はすっかり舞い上がってしまっていました! その後、6合目くらいからストップな腐れ雪に変わり、徐々にツリーが目立ってきましたが、調子に乗ってジブをかましつつ飛ばしていたところノーズささって大転倒! なんとそのまま滑落してしまいました。

「ああ、止まらない!」と思いボードや手でなんとか雪面にブレーキをかけようとしばらくもがいていましたが、突然体がどこかに落げ落とされました。「うわっ!なんだ?」 気がついたらツリー穴の底で「マット運動の後転の途中」みたいな姿勢のまま止まっていました。

 穴から苦労して這い上がると(両足が固定されたままだったので全然身動きが取れず、その情けない姿勢のままボードを外したのを憶えています。)、さすがに誰も笑っている奴はいませんでした。今回ここに連れてきてくれた師匠からは「気をつけないと!」とおしかりをいただきました。まったく木に頭や体をぶつけなかったのは不幸中の幸いでした。

 その後2回ほど羊蹄山を滑走しましたが、「ホールイン・ワン」には、それっきり1度も出会っておりません。でも、ありがたくない、全然うれしくない「ホールイン・ワン」に遭遇する確率は、春山では意外と高いかもしれませんので気をつけましょう。(終)


今日の教訓!

その1 滑落事故は大変恐ろしいもので、しかも他人事ではない。
その2 アイゼンは絶対必要。また、ハイクアップのルートは慎重にポイントを選ぶべき。
その3 転倒しないように慎重に滑ることが何より大事。調子に乗らないことが肝心。

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